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「結局さ、どうして手つないでくれない時期があったの?」
「そうだね、それ私も気になる…」
掃除当番の敦矢を待ってる間、下駄箱の前でまた凪咲と華乃の二人につかまった。
私はなんと伝えようか一瞬考えて「暑いからベタベタしたくなかったんだって」と答えた。
「あー…なるほどね。わかるわかる」
「今年の夏はヤバかったもんね…」
「北海道の過ごしやすい夏を返せって感じ」
「本当だよ…湿度も高くて髪がうねって大変なのにさ」
二人は納得した様子で話し始めた。
わかるんだ…
私は暑くても、好きな人とくっつきたいけどな…
そんな風に思っていると「じゃあさ…」と、凪咲がヒソヒソ話をするように口元に手を当てた。
華乃と私は、その凪咲の口元に耳を寄せた。
「夏も終わりだし、涼しくなってイチャイチャし放題だねっ」
一瞬だけ沈黙が流れた。
そして、私たちは三人顔を見合わせて、キャーキャーと黄色い声をあげた。
「何、騒いでるの?」
敦矢が掃除を終えて、怪訝な面持ちで声をかけてきた。
「ううん、何でも…」と、私は口元を緩ませて答えた。
「あ、敦矢お疲さま…それじゃ愛依、私たち行くねっ」
「じゃあね…敦矢、愛依」
二人はまだキャッキャ言いながら教室の方へと消えていった。
「あの二人と何話してたの?」
敦矢が訝し気に聞いてきた。
「ううん、夏はもう終わりだねって話…」
「えー…それであんなに盛り上がる?」
「うん、まあ…ね」
「ふーん…」
私はニッコリ笑顔で「帰ろう?」と、敦矢の腕をつかみ、自転車を押す敦矢にぴったりとくっついて歩いた。
夏の終わりはなんとなく寂しくなって好きじゃなかったけれど、先程の凪咲の言葉を思い出して、夏の終わりも案外悪くないなと思った。
これから訪れる秋、冬。恋人との距離が近づく季節はこれからだ。
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