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 「敦矢、今日は塾休みだよね?一緒に帰ろう」  「うん、ちょっと本屋寄っていい?」  「いいよ、何買うの?」  「英検対策の本」  「そっか…二級受かったんだっけ、準一級とかすごいね」  高校三年生。夏休みが終わり、周りも一気に受験モード。  今までおチャラけてきた人たちも、少しずつ顔つきが変わってきた。  だから、私も本当は敦矢との関係について悩んでいる場合でもない気もするのだが、それはそれ、これはこれだ。  学校を後にして、本屋までの道のりを敦矢は自転車を押して歩き、私はその隣を歩いた。  肩を並べて歩いてはいるが、微妙な隙間が埋まらない。  「今日も暑かったね…午後の体育バレーけっこうしんどかった」  「うん、男子はサッカーだった。汗だく…近寄んない方がいいかも」  「えー…全然気にならないよ」    私は思い切って敦矢の腕に、自分の肩をくっつけて寄り添ってみた。   「俺が気になるんだって…」  敦矢はそう言って、私から少し離れてまた微妙な隙間が生まれる。  えー…嘘…ショック…  カレカノなはずなのに、ちっとも距離が縮まらない。  何で?どうして?  私の心はかき乱されたけれど「そっか、ごめん」と声をふり絞って、何もなかったように持っていたサブバッグを敦矢側に移動させた。   うっすら涙目になっていることを悟られないように、私は歩道脇の花々を眺めて「コスモス咲いてる。もう夏も終わるねー…早く涼しくなって欲しいけど、日も短くなるしなんか寂しいね。そしてあっという間に冬がきて、受験…コワイなぁ…」と、饒舌になった。  そして敦矢は、私の話に短く「あぁ」と相槌をうった。
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