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第二問
柔らかいマットの上に倒れ込んだ直人は、「正解です! おめでとうございます!」という声を聞いてようやく状況を把握した。
そうか、◯で正しかったんだ。ゆっくりと起き上がりマットから出ると、隣りに置かれた泥が入った浴槽が目に入ってきた。茶色い泥が敷き詰められている。よかった、と心の底から思った。こんなところに飛び込んでいたらと想像するとゾッとした。
「恋人の樹理さんのあだ名はジュリスケでした。中学生の頃、樹理さんはサスケというアニメキャラクターが好きだったそうで、そこから付けられたあだ名だったようです。意外でしたね。それでは次の問題に移りたいと思います。直人さん先へお進みください」
スタッフに誘導されるがまま進んでいくと、彼の眼前には再びあの二択の壁が現れた。こんな問題があと二つ。あと二つ正解すれば、賞金百万円が貰えるのだ。直人は気合を入れた。賞金はなにに使おうか、旅行にでも行こうか。それとも、彼女のために使うのもいい。収録前に樹理は欲しいものがあると言っていた。それを買ってあげてもいいだろう。
「では第二問!」
司会者の声が響く。
「樹理さんが恋人である直人さんの好きなところランキング、第一位が『いつも褒めてくれるところ』ですが」
なんじゃそら、と問題を聞きながら直人は思った。飲み会でするような会話をテレビ番組のクイズの問題にしている。彼は一気に恥ずかしくなり、顔を赤らめた。
「では、第三位は『ケンカをした後に必ず先に謝ってくれるところ』である。◯か✖️か?」
「なんだよその問題」
我慢できなくなった彼はついに声に出した。こんなことをテレビ番組でやるのか?
だが、彼の抵抗虚しく設置された時計は時を刻んでいく。制限時間は一刻一刻と経過していった。
恥ずかしさや問題に納得のできない思いなどが彼の頭にこびり付いていたものの、それを拭う時間などないことは明白。直人は走り出した。
とぼとぼと歩きの延長のような走り。その状態でも頭の中では記憶が目まぐるしく駆け回っていた。
ケンカ、ケンカ……。彼女と付き合って三年。ケンカなんてほとんどしたことはない。なにかあったかな、と頭を働かせていると、ある場面が思い浮かぶ。大きなケンカといえばあれぐらいだろう。
それは別れ話に発展するほど二人にとっては重大な出来事だった。あのとき、自分は先に謝ったのだろうか。どちらが悪いとかそういうことではなく、場の雰囲気を変えたくて、『ごめん』と言った気がする。そして、してもいない浮気を認めた気がする。
彼は走りながら行き先を決めた。間違いない。そうだ、正解は◯、◯へ行こう。
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