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 握られた手の力が少し緩まった隙をついて、私はその手を振りほどき走って逃げた。角を曲がったところで止まったけど、多賀くんが追いかけてくる様子はない。良かった……。  空気がうまく吸えない。走ったから息が苦しい。  ――好きな人がいるから、無理!  咄嗟にそう言ってしまった。嘘だよ。嘘だけど。  ――なんだよ、萎えるわ〜。  郁哉は絶対にそんなこと言わない。そもそもむりやり手を握ったりしない。郁哉なら、郁哉なら――  昨日から、頭の中が郁哉でいっぱいだ。気になるようなLINEを送ってきたからだ。  まだ気が動転しているのか、気がつけば郁哉に電話をかける自分がいる。耳の奥で鳴る呼出音が、はやる気持ちを抑えられない。  呼出音が途切れ、心臓がキュッとなる。 『――星那?』    懐かしい、郁哉の声だ。そう思ったら、なんだか安心して、目が潤んだ。一緒にいた頃は何とも思わなかった優しい声が、今日は一段と心に響く。 『なんかあった?』  郁哉の声を聞いていたら、涙が出てきたなんて、そんなこと言えない。今、しゃべったら絶対にばれちゃう。 「ううん」
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