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バスをいくつか乗り継いで山の麓に着く。はじめは一般的な道を、途中から道を外れ木々と草の中を進んだ。
義足と杖で歩くのには慣れていたけれど、山を登るのには難儀した。私たちは互いに肩を貸し体を支え合いながら、母の言っていた「その場所」を目指した。
こうしてともに行動しているけれど、私たちは仲が良いというわけではない。一緒に死体を探すことにしたのも、互いに「埋まっているのはお前のほうだ」ということを突き付けて嘲笑ってやりたいという理由からだった。
両方ともが母に可愛がられてはいないことは承知していた。
二人のうちの「どちらがより愛されていなかったか」ということを確認するためだけに、それをもって相手を罵倒し馬鹿にするためだけに、私たちは慣れぬ山道を懸命に登っているのだった。
母にとっては見分けがつかなかったのだから、美羽も佐羽も大差はない、どちらがより下かなどという問題は成立しない。そう考えることもできるだろう。けれど、殺人を犯すという「その瞬間」に、母に殺意を与えた娘のほうがやはりより愚かであるというのが私たちの見解だった。
殺された娘は、虫にも等しいちっぽけな価値しかない。
「埋まっているのはきっとお前だ」と美羽が薄く笑いながら言う。
「いいや、お前のほうが殺されたんだ」と佐羽が冷たく言い放つ。
互いに一本だけの足と義足と杖を駆使して先に進みながら、私たちは罵り合った。
山は鬱蒼と暗かった。到着したのが夕暮れだから薄暗いのは仕方ないが、山に深く踏み入り歩いてみれば、予想していたよりもずっと陰鬱な空気が満ちていた。土の持つ水分が空気に湿り気を持たせて体に纏わりつく。冷えているのに、じめじめと鬱陶しい。
こんな場所に、母は死体を埋めたのか。
よほど疎ましかったのだろうなと、私たちは互いの顔をちらりと見た。組んだ肩に汗と体温を感じた。
私たちは母から聞いた場所を求めてより深い山の中へと入っていく。
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