山に埋められた私の死体

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    *  ホゥホゥホゥ――とどこかの梢で梟が鳴いた。次いで聞こえてきた羽音にはっとして、遠くへ手放してしまっていた意識をかき集める。 「佐羽」と呼んで美羽が手を伸ばす。「美羽」と呼んで佐羽が手を握り返す。  こんもりと柔らかく積もる掘り出した土に足元を埋められて、私たちはそのすぐそばに眠る死体を見つめた。  ――掘り出した死体には、両方とも足が無かった。  がくん、と体がくずおれ、上体が傾いで土の小山に倒れ込んだ。足の感覚が失せたのだ。 「……ぐぅっ」  私たちは呻いて、口の中に入った土を吐き出した。地面に突っ伏した体勢のまま、這いつくばって死体の穴の縁に顔を寄せた。  穴の中の少女は、まぶたを閉じてもらうこともなく横たわっていた。命の灯りを失くした瞳はすでに虫たちに喰われたのか、墓穴によく似た昏い洞があるばかりだった。  その、視線すらも合わせようがない少女は―― 「美羽」 「佐羽」  ――私ではなく私たちのどちらかではなく。 「……っこの!」  同時に互いの顔に目をやった瞬間、抑えようのない感情が湧きあがった。  ぎりりと互いの肩をむしるほどの力で掴んで「くそっ、この!」と中身のない罵倒を口にした。  お前が埋まっているべきだったのに! と言ってやりたくて、だけどできない。 「……くぅっ……」と零れたのは泣きだす前のかすかな吐息。  片方の手を握りしめ合い、片方の手で掴み合い、傷めつけ慈しみ合いながら、私たちは地面に倒れたまま嗚咽をもらした。  ――ああ。そうだ。  美羽なんていなかった。  佐羽なんていなかった。  私たちは穴の縁に寄って、無造作に埋められていた少女に向けて涙をこぼした。 「……可哀そうな羽衣(うい)」 「私」はずっと、ひとりだったのだ。
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