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自分よりも惨めな存在がいると思うことで心を救おうとしていた。心の中に作った互いを睨み憎むことで、他への関心を必死で捨てようともしていた。
土中に横たえられた少女に向け、美羽と佐羽が手を伸ばす。
私が生きる世界でもっとも可哀想で惨めな娘。ひとりっきりの羽衣。
父に足を切られて母には殺されてしまった少女。目を開けたまま、雑に土をかぶせられてしまった。
「可哀想ね、羽衣」
美羽が震える声で心からそう言った。佐羽は慈しむような涙を流した。
「辛かったね……可哀想に。可哀想にね」
私たちの悲しみも瞳から落ちた水滴も、黒々とした穴に吸い込まれて消えてゆく。
……慰めてくれる手も優しい声も知らなかった、寂しい子。
妄想で片方ずつ生やした足はもう消えてしまっていた。
ずりずりと地面を這い、穴に向かう。私たちの存在の根源は、汚い土の中で腐りかけてとろけて光る。
髪が土に塗れようと口の中に虫が入ろうと、もう気にすることはなかった。
「ああっ」
浅い、けれど人ひとりを埋められる程の深さの穴の底に向けて、転がり落ちる。飛び出た木の根が、私たちの肌を裂いた。
佐羽の肩とぶつかり、美羽の腕と絡まり、胴体は潰され合って血が混じり意識は途絶え――。
私たちは墓穴の中で、ひとりの少女の死体になった。
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