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第5章 4 ~拉致~
大学の研究室で資料をまとめ終えた弓削は、伸びをしてから腕時計を見た。もう夜の十一時を過ぎている。帰りにコンビニでも寄っていこう。そう考え嘆息すると、疲れた体で研究室を後にした。
弓削が職員用駐車場に停めてあった愛車のワーゲンに乗り込もうとしたそのとき、不意に背後から声をかけられた。
「弓削真由美だな?」
弓削は足を止め振り向こうとしたが、背中に固い物を当てられると体が硬直した。
「動くな。騒いだら殺す。大人しくしていれば、命までは取らねえよ。今はな」
若い男の声だった。弓削が頷くと、男は拳銃をわざと視界に入るように見せ、駐車場脇の道へと向かわせた。
その先にはエンジンをかけたまま停車している黒塗りの大型高級セダンがあった。近付くと、窓ガラスに映るフードで顔を隠した男の姿が確認できた。背丈は決して高いとは言えないが体格は良さそうだ。しかし真代が言っていた大男ではない。背後から手が伸びて後部ドアを開けた。
「乗れ」
弓削は言われた通り乗り込もうとしたが、その後部座席にもう一人の男が乗っている事に気付き、ハッとして動きを止めた。
フード付きの黒いローブを着た大男だ。
「ぐずぐずするな。早くしろっ!」
銃を後頭部に押し当てられた弓削は、ゆっくりと車に乗り込んだ。
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