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帰省 2
車で住んでいた町内に入る。見渡す限り、田んぼと畑、の後ろに青々とした山。同じ市内とは言え隣町と合併したから、今住んでいるところと比べるとなかなかのらど田舎だと感じる。
赤信号で止まると、合間にスマホの画面を見る。母からの返信はないようだ。
もうそろそろ着いちゃうのにな。
お昼ご飯、何かあると良いけど。
進学校に行って良いとなったのは、ある日町の会合から帰ってきた父の鶴の一声だった。
「話の中でお前のことが出た。受けるからには絶対入れ」
会合には私の担任の先生も来ていらして、娘さんは〇〇高校を受けさせるんですか? と父に聞いたらしいのだ。そこへ父と仲のあまり良くない向かいのおじさんが、女のくせに受かるはずないと言ったらしいのだ。父も売り言葉に買い言葉で娘は絶対に〇〇高校に入ります、と宣言してしまったらしい。
「受けて良いの? ありがとう、お父さん」
「ただし、高校までだからな。大学なんて行く必要ないんだから、それ以上は出してやらんからな」
「うん、うん、わかった!」
そんな父の言葉を、私はその時よく理解してなかった。
その時は、〇〇高校に行けるのだと思うと嬉しくてたまらなくて気にならなかった。まだ受けてもいなかったのだが。
無事合格し、〇〇高校に通う事となった。
素晴らしい3年間だった。
進学校だが、自由な校風で、部活には入らなかったものの、文化祭の実行委員をやったりして楽しく過ごした。
生徒は県内の様々な中学校から来ているから、すごく刺激を受けた。
「父さん、私、大学も行きたいん」
そう思うまでに時間は掛からなかった。
新聞を読んでいる父に伝えると、こちらを見ようともせず応えた。
「前にも言ったろ、大学なんて行く必要ない。お前もわかったって言ってたろ」
確かに言った。でもあの時は、希望の高校に入れると言うだけで、頭がいっぱいだったのだ。
今は違う。
「私、行きたい大学が出来たん。これから私が農業継ぐんやろ、だから」
「何生意気いってる」
父は新聞を乱暴に叩きつけた。
「お前が継ぐんじゃない。婿を連れてきて養子にするんだ。お前は高校だけ出たら田んぼだけ手伝ってたら良い」
捲し立てられ、つい反論する。
「でも父さん、大学にも農学部ゆうのがあるんよ。県内でも国立のとこもある。お金なら奨学金借りるし」
そこで言葉を止めた。父の顔が真っ赤になって、わなわなと震えていたからだ。
あ、やばい。
「そんなことは聞いてない! 高校までと言ったろ! 女は大学に行く必要はない! わかったか!」
ばちぃん。
父は怒鳴りながら右手で私の頬を叩いた。
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