5 チャンドラvsバラジ

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5 チャンドラvsバラジ

 3か月前  ラーム王国南部のコーチ村  とある民家に住んでいる少年は自分の子供部屋の窓から外の近衛兵の様子を見ていた。 「父さん、近衛兵だ。レジスタンス狩りだよ。」  その少年は興奮気味に居間にいる父親の方に振り向きながら説明した。 「あまり窓の外を見ない方がいい。  それに、レジスタンス狩りなんて言い方、誰に聞いたんだ?  レジスタンスを侮蔑する言葉だ。そんな言葉、絶対に使うんじゃない。  いいね、気を付けるんだよ。」 「ごめんなさい。」 「レジスタンスは我々市民のために命をかけている。  尊敬はされても、軽蔑されるべきものではない。  いいな?」 「うん。  この村にレジスタンスの人はいるの?」 「それは分からん。仮にいても、住人には気づかれないようにしていると思う。」 「じゃあ、見つからないかもしれないんでしょ?」 「どうだろうな。近衛兵はしつこいから。  父さんはこれからアデリーに行ってくる。」 「アデリーに?」 「そうだ。父さんの幼なじみがアデリーにいてな。その幼なじみに会ってくる。  近衛兵が来ているが、どうしても、今、行かなければならない。  留守の間は母さんの言うことをよく聞いて、いい子にしているんだぞ。」 「任せてよ。」 「よし。」  その子の母親が口を開いた。 「この子は大丈夫よ。  あなたに似て、しっかりしているから。  あなた、どうしてもアデリーに行くの?」 「ああ、今の状況を伝えてくる。  伝えたからと言って、何がどうなるのか自分でも分からんが、伝えない訳にはいかないからな。」 「あなたが決めたことだから止めないけど、くれぐれも気をつけてくださいよ。」 「ありがとう。  じゃあ、行ってくるぞ。」  父親は、近衛兵の目を盗んで馬にまたがると、村を出て王都アデリーに向かった。 ◇  父親が数時間馬を走らせていると、アデリーの都が見えてきた。  久しぶりに来たが、アデリーはいつ来ても村とは違って人で溢れ返っているな……  家にいてくれるといいが……  父親は、アデリーの街のはずれに立っている小さな民家にたどり着くと、入り口の扉を8回ノックした。 「……誰じゃ?」  暫く間が空いて、家の中から野太い声が聞こえてきた。  よかった。家にいる…… 「チャンドラ、俺だ。コーチ村のロンだ。」 「……ロンか?ちょっと待て。  いやぁ、久しぶりじゃの。今、開ける。」  ロンが待っていると、扉がゆっくりと開いた。 「どうした?突然。アデリーに来る用でもあったのか?」  チャンドラは笑顔で出迎えた。 「チャンドラ、元気そうでよかった。  今日はチャンドラに用があって、村から出てきたんだ。  家にいてくれて助かったよ。」 「ほうか。それで何じゃ?用って。  村からわざわざ来るんだから、余程のことか?」 「そう思って来た。実は、村に近衛兵が突然やってきて……」 「村に近衛兵が?」 「ああ、そうだ。」 「目的は何か分かるんか?」 「レジスタンスを探しに来たようだ。」 「近衛兵の規模は、どれくらいかの?」 「正確には分からんが、5、60人はいると思う。」 「レジスタンスが村にいるとしたら、他の組織だな。」 「そうか。俺としては、とにかく故郷に近衛兵が来たことを直接お前に伝えたくてな。」 「ロン、それは大正解だ。  今から戦力を整えて村に行く。  生まれ故郷を戦場にすることは避けたいが、何がどうなるか分からんからな。  近衛兵に被害を受けた者はおるのか?」 「詳しくは分からんが、知っている限りでは、住人に手出しはしていないと思う。」 「それは良かった。  ロンはすぐに村に戻って、皆に伝えてくれ。家から出るなと。」 「分かった。じゃあ、俺は一足先に村に戻る。  チャンドラ、あとは任せたぞ。」 「ああ、俺に任せておけ。」 ◇  ロンを見送ったチャンドラは、ラーマの麒麟本部の第2隊の施設に行くと、副長のジョディを呼んだ。 「ジョディ!  レジスタンスを追って、南部のコーチ村に近衛兵が現れたらしい。すぐに出発じゃ。」 「コーチ村ですか?我々の隊はいないはずなので、他の組織がいるのでしょうか?」 「その可能性も捨て切れんの。」 「分かりました。コーチ村は師団長の故郷ですよね。  すぐに準備を整えます。  出来る限り速やかに村に着く必要がありますから、騎馬隊を組織します。  敵の近衛兵の人数も50人強とのことでしたら、戦力的にも引けを取らないと考えます。」 「ああ、編成はジョディに任せるぞ。」  その30分後、チャンドラの第2隊の内、騎馬隊50名はコーチ村に向けて本部を出発した。  馬を駆ること2時間、第2隊の騎馬隊はコーチ村の手前2キロの所まで来ていた。 「全隊、止まれっ!」  ジョディが突然叫んだ。 「こっちから行かんでも、向こうから来てくれたわい。」  チャンドラは楽しそうに笑った。 「村に我々以外のレジスタンスがいなかったのか、それとも……」  ジョディは村にいるレジスタンスの事が気になった。  チャンドラとジョディの前方100メートル先にバラジの第2師団の姿があった。  ラーマの麒麟第2隊と近衛兵団第2師団は100メートルの間合いを取って対峙した。 「ジョディ。あの先頭におる奴、師団長のバラジだな。」 「ええ、そうですね。」 「あの丸顔の巨漢、血気盛んじゃな。戦いたくてウズウズしておる。  この距離からでも分かるわい。」 「ぷっ!」  ジョディは堪え切れずに噴き出して笑ってしまった。 「ん?どうした?」 「いえ、すみません。こんな時に。  何でもありません。」  うちの隊長といい勝負だな…… 「バラジは、隊長と同じマントラ、生物に対する念動力を使います。  戦い方にはご注意を。」 「ほうか。そいじゃあ、この『安底羅玄武』に活躍してもらうか。」  チャンドラは自分の槍を見つめた。 ◇  一方の近衛兵団第2師団 「ふーっ。  カビーヤ、あれはラーマの麒麟だがっ!」 「はい。先頭の騎馬に乗って、槍を手にしているのが隊長のチャンドラですね。  残念ながら村にはレジスタンスがいませんでしたが、こんな形でラーマの麒麟に出会うとは……  大物狩りになりそうですね。」 「探す手間が省けたな。隊長の首を持って帰るがっ!  全軍、気合を入れろっ!  ふーっ。」  バラジは『羅刹黒鯨』を振り上げた。  それが合図になったように、両軍はじりじりと距離を詰め始めた。  間合いが徐々に狭まってくると、チャンドラとバラジはほぼ同時に馬から降り立ち、全神経を集中させて戦闘態勢をとった。  2人は互いの姿しか眼中に無く、戦闘が始まる前から、大将戦の様相を呈していた。  ジョディとカビーヤも馬から降りると、それぞれの将の横に付き従った。  他の隊員や兵士たちは、チャンドラとバラジの気迫に飲み込まれて微動だにしなかった。  と言うより、動くことが出来なかった。  その中で、チャンドラとバラジは、じりじりと間合いを詰めていった。  お互いに、攻撃可能な間合いに入ったことは分かっていた。  いつ、どう動くのか、目に見えない駆け引きが続く。  ……最初に動いたのはバラジだった。 「バキラヤソバカッ!」  大きく息を吸い込むと、チャンドラに向けて、両手の手のひらを開き、同時にマントラを叫んだ。  その瞬間、チャンドラも両手の手のひらを開いてマントラを唱えた。 「バキラヤソバカッ!」  目に見えないマントラの力が空中で衝突したようだったが、それ以外何も起きなかった。  マントラの力は蒸発してしまったかのようだった。  同じマントラの力がぶつかり合うと、その効果を打ち消し合ってしまうんだ。  隊長はバラジのマントラを無効化するためにマントラを唱えたのか……  ジョディは妙に感心していた。  恐らく、隊長は次も動かないはずだ。バラジの出方を見る。  バラジはどう動く?  ジョディとカビーヤを含めて、チャンドラとバラジ以外の隊員や兵士たちは、その場にとどまったまま一歩も動かず、固唾を飲んで、2人の対戦を注視していた。 「同じマントラだと戦いにくいがのっ!」  バラジはチャンドラに叫んだ。 「それは、お互い様ぞっ!」  チャンドラは愛槍『安底羅玄武』を右手で握り、応戦体制をとった。  それを見たバラジは、愛鉾『羅刹黒鯨』を両手で水平に構えた。  食らってみるが、チャンドラ。  バラジは『羅刹黒鯨』を水平のまま、チャンドラに向かって大きく一振りした。  その直後、『羅刹黒鯨』の刃先が当たった訳でもないのに、チャンドラの胸当てが真一文字に砕け散った。 「くっ!な、何じゃっ?」  チャンドラは砕けた胸当てに視線を落とした。  ……斬撃波?  あの鉾、斬撃波を出すことが出来るのか?  ジョディは目を見張った。 「隊長、その攻撃の正体は、バラジの鉾から出た斬撃波だと思います。  鉾の動きに注意してください。」 「斬撃波?厄介な武器を持っとるな、アイツ。  面白くなってきたわい。」  チャンドラはそう言うと、『安底羅玄武』を構えてバラジめがけて駆け出した。  間合いを詰めれば、斬撃波を放つことが出来んじゃろ。  チャンドラは、自分の間合いに入ると、バラジの胸をめがけて『安底羅玄武』を直線的に突いた。 「むんっ!」  バラジはチャンドラの攻撃を『羅刹黒鯨』の刃の部分で防いだ。  ガキッッッ!  槍と鉾が激しくぶつかり合うと、まばゆい閃光がほとばしり、衝撃で生じた稲妻がそこら中を駆け回って幾何学模様を作り出した。  ガキッッッッッ!  ガキッッッッッンン!  バラジは、力に任せてチャンドラの攻撃を振り払うと、巨漢に似合わず機敏な動作で後ろに数歩下がった。  このジジイがっ!  バラジめ、でかい割には素早いの。  また、斬撃波を狙っておるな。  『安底羅玄武』で防ぐことが出来るかの……  チャンドラが思案する間もなく、バラジは後ろに下がりながら、『羅刹黒鯨』を二振りして斬撃波を放った。 「諦めるがっ!チャンドラのジジィ、これで終わりだがっ!  ふーっ。」  チャンドラは、空気の揺らぎから瞬時に斬撃波の気配を感じ取り、『安底羅玄武』を左右に素早く降ることで第1波を消し去った。  ただ、立て続けに飛んできた第2波を防ぎ切れずに、左の肩当てが砕けた。  く、くそっ!  一つしか防げんか……  大将戦を見守っていた近衛兵団兵士長のカビーヤは、馬に飛び乗ると師団の兵士に命じた。 「全軍、レジスタンスを始末するぞっ!」  カビーヤと同じく大将戦を見守っていた兵士たちは、我に返ったように戦闘態勢を整えた。  ラーマの麒麟の副長ジョディもまた、騎馬隊全隊に攻撃命令を下した。 「全隊、私に続けっ!」  騎馬にまたがったジョディは騎馬隊を引き連れてカビーヤに向かって猛然と突き進んだ。  両軍が入り乱れて交戦状態になっていた時でも、チャンドラとバラジの周りの空気だけはピンと張りつめたままだった。  チャンドラはバラジが握っている『羅刹黒鯨』をじっと見ていた。  あの鉾を振り回されたら、めんどいな……  間を与えんようにせんとな……  チャンドラは、愛槍『安底羅玄武』を後方に素早く振りかぶると、渾身の力を込めて、バラジの胸元めがけて投げ込んだ。  チャンドラの大きな右手から放たれた『安底羅玄武』は空気を切り裂きながらバラジに襲いかかった。  と同時に、チャンドラは「バキラヤソバカッ!」とマントラを唱えると、バラジに向けた両手が黄色に発光して、バラジの動作を止めた。 「貴様、考えたなっ!」  バラジは身体を動かそうとあがいたが、粘土質の地中深くに埋められでもしたかのように、自らの意思に反して、全く動かすことが出来なかった。  動きを止められたバラジは、『安底羅玄武』の餌食になるのを待つしかなかった。 「ちっ!」  ガコッ!!  バラジの胸当ては『安底羅玄武』が突き刺さった衝撃で砕け散った。  胸当てのお陰でバラジの胸部の表皮は無傷だったが、その衝撃はバラジの胸骨にひびを入れていた。 「俺の防具を砕いだまではいいが、これで丸腰だがっ!  ふーっ。」  チャンドラの念動力から解かれたバラジは勝ち誇った。  アドレナリンが出ているせいで、胸部の痛みは全く感じていなかった。  その時、バラジに一瞬隙が生まれた。  チャンドラはその隙を見逃さなかった。  バラジの足元の地面に落ちた『安底羅玄武』は意志を持っているかのように空中に浮き上がると、音もなくチャンドラの右手に戻って来た。  チャンドラは、バラジに向かって駆け出すと、戻ってきた『安底羅玄武』を両手で持ち直して、剣のようにバラジの胸部を下から上に袈裟斬りにした。 「ふんっ!」  隙を見せたバラジには、チャンドラの攻撃を防ぐ術が無かった。 「うぐっ!」  『安底羅玄武』で袈裟切りにされたバラジの胸からは、大量の血しぶきが勢いよく空に向かって噴き出した。  その血しぶきは、みるみるうちに周りの地面を赤く染めた。  その時、騎乗の兵士長カビーヤと副長ジョディは、激しく剣を交えていた。  剣と剣が交じり合う度に甲高い金属音が響き渡り、刃からは火の粉が散った。  正に火花を散らしての戦いだった。  剣での攻撃も防御もほぼ互角の戦いだったが、剣さばきのスピードが一枚上手のジョディが徐々に優勢になっていた。  カビーヤは、いつの間にか防戦一方になって、ジョディの繰り出す斬撃を何とか剣で防いでいた。 「くっ!」  攻撃に移れん……  そんな状況の中で、カビーヤの耳にバラジの叫び声が飛び込んで来た。  ん?師団長の声?  師団長の身に何かあったのか?  カビーヤにバラジの状況を確認する余裕は無かった。  この場をしのいで、早く師団長の元へ急がねば……  しかし、副長のこの男、小柄な割に剣術に長けているな。  時間が無い。  一か八かやるしかないな……  カビーヤは、ジョディの斬撃をなんとか受け止めながら、脚の長さを活かしてジョディが乗っている馬の腹を蹴り上げた。  突然、横腹を蹴られたジョディの馬は驚いて反射的に上体を反らした。 「うわっ!落ち着けっ!」  馬が暴れたせいで、ジョディはバランスを崩して、カビーヤへの攻撃の手を止めた。  カビーヤはその隙を逃さずにジョディから離れた。  そして、カビーヤは、ジョディとの戦闘を一方的に打ち切って、馬をバラジの方に向けると、あっという間にバラジの元に向かった。 「待てっ!どこへ行く?」  ジョディは馬をなだめるとカビーヤの後を追った。  バラジの元に向かったカビーヤは、目に映ったバラジの姿に驚きを隠せなかった。  バラジは、胸元を鮮血で染めて、片膝を付いていた。  そして、その額から顔の輪郭にかけて滝のような汗をかいていた。  バラジに一撃を与えたチャンドラは、『安底羅玄武』を構えて、追撃態勢をとっていた。 「師団長っ!」  間に合うかっ?  カビーヤは、声を上げることで、バラジとチャンドラの注意を引いた。 「カ、カビーヤ……」  バラジは『羅刹黒鯨』を握りしめて、立ち上がった。  カビーヤは、バラジとチャンドラの間に、馬に乗ったままで割って入った。 「なんじゃっ?」  チャンドラは馬を避けるために後ろに下がった。  その間隙をついて、バラジは馬にまたがると、カビーヤと共にその場から離れた。 「師団長っ!大丈夫ですかっ!?」  カビーヤは叫んだ。 「かすり傷だがっ!  ふーっ。ふーっ。」  バラジは、カビーヤに強がって見せたが、受けた傷は思いのほか深く、馬の首にもたれかかるようにして、肩で息をしていた。 「師団長っ!ここは、ひとまず撤退をっ!」 「敵に背中を見せられんがっ!」 「すみません。  ですが、最良のご決断をしてください。  部下の士気も下がって劣勢に立っています。被害が拡大します。  この借りはまたの機会に。  お願いします。」 「……状況判断が出来んようでは師団長として失格だが。  ここはひとまず、全軍撤退するが。  カビーヤ、皆に命令を出してくれ……」  バラジは己の不甲斐なさに歯ぎしりしながら指示した。 「了解しました。」  カビーヤは伝令に走った。 ◇  一方のジョディはカビーヤの後を追ったが、カビーヤがバラジと合流したために、指示を受けるべく、チャンドラの元に向かった。 「隊長。バラジを追い詰めたようですが……」 「ああ、ちと浅かったがな。もう手負いじゃ。」  チャンドラの表情には不満の色が浮かんでいた。 「敵は撤退し始めました。追いますか?」 「いんや。村がどうなっているのかが心配じゃ。村の確認が最優先。  近衛兵は行かせてしまえ。」 「分かりました。  では、負傷者を手当てして、隊列を整えます。」  ジョディは的確に指示を出して隊員の隊列を整えた。  撤退し始めた近衛兵団第2師団をしり目に、ラーマの麒麟第2隊はコーチ村に入った。  第2隊が村に入るや否や、チャンドラの幼馴染のロンが家から飛び出してきた。 「チャンドラ!」  ロンは隊の先頭にいるチャンドラに手を振った。 「おお、ロン。村はどうじゃ?何か被害が出たか?」 「特に被害はなさそうだ。  レジスタンスがこの村に潜伏してなかったらしくて、近衛兵はあまり長居せずに出て行った。」 「それは何よりじゃな。」  チャンドラは安心したような表情になって馬から降りた。 「チャンドラ、胸当てが壊れているようだが、近衛兵と戦闘になったのか?」 「ああ、村に来る手前で近衛兵と遭遇したからな。」 「負傷したのか?」 「いや、この通り。ピンピンしておるわい。」  チャンドラは自分の胸を軽く叩いて見せた。 「さすがに不死身のチャンドラだな。」 「おうよ。簡単には死なんよ。」 「チャンドラ、お前はこの村の英雄だ。不死身の英雄だ。  チャンドラがいるからこそ、この村の人間は近衛兵なんかに屈することがないんだ。」 「あまり持ち上げるな。こう見えても、わしはプレッシャーに弱いんだ。」  チャンドラはロンの肩を軽く叩いた。  チャンドラとロンのやり取りを見ていたジョディは自然と笑顔になっていた。 ◇  コーチ村から3キロメートルの地点  近衛兵団第2師団は王都アデリーへの帰路についていた。 「師団長、傷の手当てをした方が良いのではありませんか?」  カビーヤは、バラジがチャンドラから受けた胸の傷の状態を心配していた。 「ふーっ。  カビーヤ。  俺は今日の屈辱を忘れんためにも、この傷の痛みと共にアデリーに戻る。」  チャンドラよ、この傷の借りは10倍にして貴様に返すがっ!  バラジは胸元の傷に視線を落とした。  傷口から流れ出した血は、どす黒くなって、着衣にこびり付いていた。
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