エミリィ・ブラントの手記

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 10年前──当時わたしは19歳だった。  目の前にそびえたつ巨大なコンクリートの塊を目にした時は、少しだけ足がすくんだわ。だって、薄汚れた灰色で、分厚く巨大なコンクリートの門なんて見たことがなかったもの。しかも、そのコンクリートの塊が自動で開くだなんて。  ゴゴゴと地の底から響いてくるような不気味な音と共に、門がゆうっくりと開き、その先にある広大な敷地にミューパー孤児院が見えた時、わたしの胸は踊ったわ。恐ろしい門の向こうにかわいい子どもたちが待っている。そう思ったら門のことなんてどうでもよく思えたの。  今日からわたしはGM。  三年の育成期間を経て、ようやくミューパー孤児院にたどり着けたんだもの。後戻りする気はなかった……いいえ、後戻りなんかできなかった。  GMとは、ゴッドマザーあるいはグレートマザーの略。家事の一切に長け、知性が高く、深い愛情とすべてを見通す千里眼、そして──なにより求められるのが想像力。物事のすべては想像力がないとはじまらない。その先になにが待ち受けているのか、どんな未来が広がっているのか。目先のことだけしか考えられない人間では、決してGMにはなれない。
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