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初めは建志の腕の中にいた亜里沙だったが、次第に離れ、顔は真剣になり、最後には背を向けて話し出した。
電話を切り振り向いた亜里沙の顔は青ざめていた。娘に何かあったらしい、慌てて外へ出て行こうとする。俺も付いて行こうか、と建志が言うと近くの交番で保護されているらしく迎えに行くから大丈夫とのことだった。
変質者に連れ去られそうになったそうだ。
亜里沙のヒールが、不規則な音をさせながら階下へ消えていった。
女の子供はかわいいけれど、こういうことがある。
「娘を育てるっていうは大変だな」
建志は声に出してそう言っていた。
それにしても危なかった。まさか加奈とのことがこうも早く知れ渡っているとは。亜里沙の言う通り、女性のネットワークというのは侮れない。きっとホテルに入るところを近所の人にでも見られたのだろう。
加奈からのメッセージが届いていた。今からそちらへ行く、という内容だった。まさか本当に来るわけがない、と思った建志は何も返さなかった。
建志は椅子に座りタバコに火を点ける。煙を吐く。換気扇を回すのを忘れていた。
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