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お母さん、と少女は心の中で叫んだ。助けてお母さん、お願いお願い、助けて。
だが、暗い道の先に明かりが見えることはなかった。
背後から迫り来る足音。
お母さん、お願い、何でもするから、何でも言うこと聞くから、助けて、助けて。
ぬかるみに足を取られ、少女は転げ落ちた。軽い体はボールのように何度も跳ねた。
転げ落ちるわずか数秒の間、少女は短い人生の中で見た多くの光景を思い出していた。
お母さんと一緒に行った動物園、途中で雨が降り慌てて建物の中へ避難した、日曜朝にいつも見ているアニメ、学校では一人ぼっちだったけれど、給食が美味しかった、特にたまに出るフルーツポンチが大好きだった、図書館で借りた本を汚して先生にすごく怒られた、ホットケーキを初めて一人で作った。
どうして少女は自分がこんな目に合わなければならないのか、どうしてこんな酷いことをされるのか、全く理解出来なかった。
相手を憎んだ。心から憎んだ。
絶対に許さない。絶対に、絶対に。自分だけが不幸になるなんて許せない。
次はお前が不幸になる番だ。
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