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これからは慎重に行動しなくてはならない。換気扇のひもを引く。ガチャリ、と大層な音を鳴らして換気扇が回る。初めはゆっくりと、徐々に力強く。煙が吸い込まれていく。
今日は失敗したが、今度は実際に金を幾らかちらつかせればいい。そうだな、五万くらいはどうだろう。自分もそこまで金があるわけではないが、亜里沙に前借でもして用意すればいい。
玄関のチャイムが鳴った。最初は無視したが、何度も鳴らされた。何度も。
まさかな、と建志は玄関の方へ。自然と音をたてないように歩いていた。鍵は掛かっていない。魚眼レンズへそっと目を近付ける。そこには、加奈が立っていた。俯いている。またチャイムを鳴らす。
マジかよ、と建志は声に出さずに言った。
このまま放っておいても帰ってくれそうもなかったので、念のためチェーンをしてからドアノブをひねった。
「何か用?」
チェーン越しに加奈へ問いかける。やはり俯いている。
「中へ入れてください」
加奈が言った。
「どうして入れなきゃいけない」
「亜里沙さんも交えてお話がしたいんです」
「亜里沙は今いないよ」
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