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なら、と加奈が顔を上げる。「帰って来るまで待ちます」
「待ってどうするんだよ。言いたいことがあるなら、今ここで言えよ」
加奈が人差し指でチェーンを、とん、と弾く。「これ、外して」チェーンが揺れた。
「嫌だね」
建志はそう返してドアを閉じようとした。その瞬間。ドアの隙間から何かが飛び出して来て、建志の腕の辺りをかすめた。腕に真っ赤な線が引かれていた。遅れて痛み。激しい。
建志は悲鳴を上げる。再び何かが向かって来る。飛び退く。目の前に包丁の刃先。
「お前、頭おかしいんじゃねえのか」
建志はそう言ってドアから遠ざかる。下の方にあった包丁は、カラカラと音をたてて上へ。チェーンを切ろうと、カツカツ。もちろん切れるはずはなかった。
血が落ちる。台所へ行きタオルを腕に当てる。傷は浅いようだ。
マジであいつはやばい。完全に頭がいってやがる。とにかく警察に電話だ。スマホ何処にやった。
台所のテーブルの上。痛む腕でフリックするが、なかなか上手くいかない。画面が真っ赤に染まる。滑る、滑る、拭っても、拭っても、染まる。
「おい、助けろ、助けろ、助けろ」
建志はそう叫んだ。
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