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建志はその場に唾を吐いた。血が混ざっていた。格闘の最中に舌を切ったのだろう、口の中が金属の味。もう一度、吐く。
スマホを探す。台所に落ちている。スマホを拾い上げる。画面が割れているが、動くようだ。
何かが足に当たる。加奈が手にしていた包丁だ。それを足で玄関の方へ蹴り上げる。
画面が割れているせいでスマホが見えにくい。明かりを点けるため電気の紐に手を伸ばす。
と、衝撃。背中に。ドスリ、と。熱い塊を貫かれたかのような。
振り返る間もなく、建志はうつ伏せに倒れた。テーブルの上にあった灰皿とカップが落ちる。割れずに。重い音。
全身が動かない。血だまりが目の前に広がる。喉の奥が苦しい。背中はどんどん熱くなる。
「あんたが悪いんだからね」
頭上から加奈の声がした。
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