亜里沙の決意

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亜里沙の決意

「あなたは、なにも悪くないんだよ」  そう言っても娘は、ごめんなさい、と先程から繰り返し謝っている。まるで誰かに命じられているかのように。  亜里沙は身を屈め、娘の目線に合わせた。娘の頬は大粒の涙で濡れていて、亜里沙はそれを指先で拭ってやった。それでも間に合わず、ハンカチを使った。  にこりと笑って、「今日はオムライスにしようか」  すると娘は途端に泣き止んで、本当? と尋ねる。本当だよ、と返すとすっかり涙は止まり、亜里沙の手をぶんぶんと振って、早く帰ろう、と言った。  子供って単純、と亜里沙は思った。けれど、そういうところがかわいい。  男に連れ去られそうになったと聞き、交番へ行き、椅子に座る娘を見るまで、亜里沙はずっと生きた心地がしなかった。亜里沙を見た娘は椅子から立ち上がり、駆け寄って来た。その時からすでに娘は泣いていた。亜里沙は力強く娘を抱きしめ、もう泣かなくていい、と背中をさすった。  これからオムライスの材料を買いにスーパーへ行こう。そこで娘に好きなお菓子をたくさん買って上げよう。もうすぐ誕生日だし、前祝いというやつだ。
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