三つの事件

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三つの事件

 それは翌日のことだった。  昨夜から近所が妙に騒がしいとは思っていたのだ。救急車の音がやけに近くて、しかし様子を見に行くような気力もなくて。  どうして、と智子は思わず声を漏らしていた。  手にしたスマホには、喜代が家のベランダから転落死した、というニュース。恐らくそれだけならこのように全国版のニュースサイトに掲載されたりはしないだろう。  智子の住む県営住宅西岡団地で、同じ日に三件の事件が起きていて、喜代の転落死はそのうちの一つだった。  記事の見出しは、平和な団地で三つの怪事件。一体何が? というものだった。後の二つは男が刺殺されたという事件、幼女を連れ去ろうとした男が逮捕されたという事件。  どうして喜代が死んだのだ。どうして転落したのだ。まさか、あの子が喜代を落としたのか。いいや、それは無理だ。私一人でも動かすのがやっとだったのに、子供ではどうすることも出来ないだろう。  電子レンジ。ピー、ピー、ピー。今日は何も作る気がしなかった。夫の帰りは遅いだろう。  ではあの後で目を覚ました喜代が、本当に誤ってベランダから転落したということなのだろうか。分からない、分からない。
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