脅迫

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 意味? と喜代は細い目を目一杯に広げて、「それは米田さんが分かっていらっしゃるじゃありませんか。この動画を誰かに見せたってかまわないんですよ」  万引きというのは、現行犯でなければ逮捕は難しいはず。それにこんなブレブレの動画を警察に見せたって、捜査すらしてくれはしない。そう智子は思った。だから強気に出た。 「警察に持って行きたければ持って行けばいいじゃありませんか。私は何にもやましいことはしていません」  おやっ、と喜代が言った。「どうして私がこれを警察に持って行く必要があるんです?」 「今そう言ったじゃないですか。誰かに見せたってかまわないって」  違いますよ、と喜代は頭を左右に振った。とても大袈裟な動きだった。 「私はこの動画をご近所さんに見てもらおうって言ってるんですよ。あなたは自分じゃないって否定されますけど、ご近所さんに見せたらどうでしょうね」  そして喜代は満面の笑み。ケタケタケタという文字がその口から漏れ出しそうな顔。  智子の脳裏に多くの妄想が廻った。その妄想はすぐに現実となって襲い掛かってきた。  生唾を飲む。何か飲みたい。
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