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自分が万引きをしていると知られたら、きっとここでは暮らしていけない。そのことで息子も学校でいじめにあうかもしれない。夫にだって、責められる。
見せればいいじゃないですか、とは言えなかった。喜代は昨日とは違う匂いがした。香水の匂いだ。
喜代が人差し指を立てる。ぴん、と。
智子はその指を見ていた。やがて意味に気が付いたが、何も言わなかった。
分かるでしょ、と喜代が言った。
「ふざけないで。あなた私を脅迫するつもり」
あらあら、と喜代はおどける。「どうしてそういう捉え方をするんでしょ。私は少しもあなたを脅迫なんかしてませんよ。ただあなたが自分じゃないって否定するから、それならご近所さんに見てもらい確かめようって思ってるだけなんですよ」
それを脅迫って言うんだよ。智子はそこで初めて外の風が冷たいことに気が付いた。階段の下の方で誰かが駆け足で登って来る音がした。息子が帰って来たようだ。この速度だとすぐにここまで辿り着く。
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