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どうする、どうする。智子は迷った。ここで渡したら調子に乗ってまた脅迫してくる可能性がある。では、金を払う代わりに今すぐに動画を消してもらうというのはどうだ。別の方法で違う場所に動画を保存している可能性もあるが、そういうことを疑いだしたらきりがなくなる。やはり金を払う方が今は賢明なのだろうか。
喜代と睨み合った。喜代は少しも動かなかった。
やがて息子が帰って来た。二人の異様な雰囲気を感じ取ったのか、四階と五階の踊り場で足が止まっていた。息子が智子を見ていた。一体どうしたの、と目で言っていた。
「こんばんは」
喜代がそう言った。息子は、こんばんは、と小さな声で答え、ゆっくりと階段を上り、二人の間を潜り抜けて家の中へ入って行った。
やはり最後に思うのは息子だった。
智子は、待っていて下さい、と喜代に告げると、中へ戻り、居間の引き出しから財布を取り出し、一万円札を引き抜くと、喜代の所へ戻った。息子は洗面所でうがいをしていた。
一万円札を受け取った喜代は、悪いわねえ、と全く悪く思っていない顔で言った。
尻をよじりながら財布を取り出し、その中へ一万円札を入れた。
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