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館には主人がいたが、ここに住んではいなかった。
たまに寄ってはすぐ出かけてしまう。まるで子供達の仕事ぶりを監督するために館へ通っているようだった。
蝋燭番の子供は主人から、決してこの館の火を絶やしてはならないと言いつけられていた。
また、決して外へ出てはならないとも。
「外には悪い精霊がいて、僕達の魂を食べてしまうんだって」
スィンザが芯切り鋏で蝋燭の芯をパチンと落とした。
「でも精霊がいるからこうやって魔法が使えるんだって、ご主人様が言ってたわ。火の精霊の加護があるからだって」
セラフィーナが壁掛けキャンドルに手をかざす。
ぼわ、と鈍い音がして火が灯った。
この瞬間、思わず頬が緩むのは優しい炎の揺めきが好きだったから。
この館の子供達はみな、物心つく前から魔法というものを使うことができた。それは瞬きするより自然な行為だった。
頭の中でイメージして気を吹き込むだけでいい。
火打石を使わなくていいから楽だが、その分、力を使うたびに自身の肉が削ぎ落とされていくような疲労感を覚えた。
「ちょっとしたら交代するよ。セラフィーナが芯切り、僕が火を灯す役」
「まだ平気よ。私、芯切り苦手なの」
「でも一晩中、力を使ってたら倒れちゃうよ」
スィンザは笑いながら、セラフィーナの手に鋏を乗せた。
スィンザはいつも優しかった。
セラフィーナより少し背が高いだけなのに、彼女を守ってあげなきゃと気張っているところがある。
少女はそれが癪であり、同時に嬉しくもあった。
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