蝋燭番の仕事

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スィンザが少女の肩越しに覗き込むと、テーブルの上の酒杯(ゴブレット)が目に映った。 その中に丸まっていたのは、一匹のトカゲ。 いったいどこから侵入したのか。 灰色の地肌に、鼻先から尻尾まで黒い二本の縦模様がある。尻尾の先は薄い緋色でツヤツヤと輝いて美しかった。 トカゲはじっと息を潜めている。スィンザが試しに突っついてみると、驚いたように杯の中を一周した。 「可愛い」 セラフィーナは両手でトカゲをすくった。 「それ、連れていくの?」 「そうよ、お友達にするの」 ワンピースのポケットにそっと忍ばせる。 「外から来たものなんかばっちいよ。それにそいつが悪い精霊かもしれないじゃないか」 「え、そう? そんなふうには見えないけど」 セラフィーナは首を傾げた。 棘のある言葉がスィンザの焼きもちだったなんて、このときの彼女は気付きもしなかった。   「名前をつけてもいい?」 「名前なんかつけなくていいよ」 「スィンザって呼んでやろうかな」 「やめろよ。そんなものと一緒にするな」 セラフィーナはおかしくて声をあげて笑った。 そのとき、部屋の入り口から誰かが倒れ込んできた。 「助けてくれ! カロルが死んじまう」
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