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少女とトカゲ
霧深い山の麓、山小屋の老爺は目を疑った。
夕闇が迫る時刻だというのに、小さな人影が歩いてくる。
黒いローブを羽織った子供だ。フードの合間から赤銅色の長い髪が垂れている。
「おやお前さん、この山を登る気かい? 今から行くのはやめたほうがいい。霧の中では道に迷うし、獣に襲われるかもしれない。どうしてもというなら、明朝、案内役の大人を連れておいで」
「でも私達あっちへ行かなきゃならないんです」
愛らしい、けれど強い意志を持った声だった。
「私達? ああ、そこにトカゲくんもいたのか」
老爺が何となしに子供の肩に乗った灰色トカゲに手を伸ばすと、
「スィンザに触らないでください。命より大切な子なの」
一瞬、痛いほどに空気が焼けついた。
「私達があの山を越えられると、証明すればいいんですね?」
「あ、ああ」
「では、ひとつお話をしましょう」
子供はフードを外した。
現れたのは透き通った肌の、触れれば霧の中に溶けてしまいそうな美しさを持つ少女だった。
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