6人が本棚に入れています
本棚に追加
四季姫と私
「人は残酷だ」
そう言い残して春の姫は散っていった。
「人は気まぐれだ」
そう吐き捨てて秋の姫はおちていった。
「人は……」
そう呟いたのは夏の姫だった。
天変地異のさなか、人々の信仰心は時代と共に薄れていった。
それは近年に続く異常気象により、人々はいつしか季節の変わり目を喜ぶこともせず、過度な干渉に恨む者すらいるという。
姉妹の別れに泣いた涙は雨雲を呼び豪雨として人々に天災として降される。
夏の姫こと筒姫はただ己の役目を全うしているだけなのに。
「人は愚かだ。夏の暑さに冬を恋し、冬の寒さに夏を恋しがる。なんともまぁ身勝手なことよ。それゆえに佐保(春)も竜田(秋)もいなくなってしまった」
悼みを含んだ責めはゆっくりと人々に咎として降りかかる。
人はその罪を甘んじて享受するしかない。
天は怒っているのだろう。
春も秋も季節の境目はあいまいになり、気が付けば人は夏と冬の記憶しか残らなくなってしまった。
「愚かな人の子よ。望みどおりになったではないか。灼熱の陽射しも今日で終わり。夜が明ければ極寒の木枯らしを味わうのであろうな」
一瞬、寂しげな表情を浮かべたかと思うと、夏の姫は唇を閉じた。
――ではな。
そこには何の未練もなく、振り返ることもせず夏の姫は姿を消した。
しんと静まり返る空間に不意に冷えた空気が首筋に触れる。
「久方ぶり」
秋虫の声などとうに聴きいていない。
鳥肌が立つほどの悪寒はもうずいぶんと昔から。
――ああ、夏が終わったのだ。と。
私は、これからしばらく長い付き合いになる、津田姫の頬をそっと撫でた。
最初のコメントを投稿しよう!