四季姫と私

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四季姫と私

「人は残酷だ」  そう言い残して春の姫は散っていった。 「人は気まぐれだ」  そう吐き捨てて秋の姫はおちていった。 「人は……」  そう呟いたのは夏の姫だった。  天変地異のさなか、人々の信仰心は時代と共に薄れていった。  それは近年に続く異常気象により、人々はいつしか季節の変わり目を喜ぶこともせず、過度な干渉に恨む者すらいるという。    姉妹の別れに泣いた涙は雨雲を呼び豪雨として人々に天災として(くだ)される。  夏の姫こと筒姫はただ己の役目を全うしているだけなのに。 「人は愚かだ。夏の暑さに冬を恋し、冬の寒さに夏を恋しがる。なんともまぁ身勝手なことよ。それゆえに佐保(春)も竜田(秋)もいなくなってしまった」    悼みを含んだ責めはゆっくりと人々に咎として降りかかる。  人はその罪を甘んじて享受するしかない。  天は怒っているのだろう。  春も秋も季節の境目はあいまいになり、気が付けば人は夏と冬の記憶しか残らなくなってしまった。 「愚かな人の子よ。望みどおりになったではないか。灼熱の陽射しも今日で終わり。夜が明ければ極寒の木枯らしを味わうのであろうな」  一瞬、寂しげな表情を浮かべたかと思うと、夏の姫は唇を閉じた。  ――ではな。  そこには何の未練もなく、振り返ることもせず夏の姫は姿を消した。  しんと静まり返る空間に不意に冷えた空気が首筋に触れる。 「久方ぶり」  秋虫の声などとうに聴きいていない。  鳥肌が立つほどの悪寒はもうずいぶんと昔から。  ――ああ、夏が終わったのだ。と。  私は、これからしばらく長い付き合いになる、津田姫(冬の姫)の頬をそっと撫でた。
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