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 六時四十五分。  携帯電話のディスプレイが、いつもより十五分早い時刻を示していた。  つまり蒼佑と恋人(暫定)となって、すでになにもせずに六時間と四十五分の時が過ぎてしまっているということだ。  もったいない。  もったいなすぎる。  恋人になったらやりたいことを、それまでたくさんたくさん妄想してきたというのに。  途端、思春期男児の妄想の数々を思い出して、緊張で心臓がバクバクいう。  東の空がきれいな薄青のグラデーションを描きながら放つ朝日を顔に浴びて、俺は少しでもリラックス効果のあるセロトニンを浴びようと、危険を承知で二階の窓から必死に上半身を乗り出してみる。  それでもバク、バク、と耳の裏で大きく鼓動がビートを刻み、顔全体が熱を帯びていくのを感じていた。  セロトニン効果はすぐには現れないようだ。  すぅ、はぁとリラックスするために深呼吸もしてみるが、こちらも俺に限ってはあまり即効性は期待できなそうだ。  そのうち俺の部屋の対面、とはいっても隣家の一階の窓が開けられた。  毎朝のことなので、そこから誰が顔を覗かせるのかわかってはいたが、それでもやはり緊張する。  なにせ、今日からその人物はお隣の幼馴染のお兄ちゃんから俺の恋人になる人であるわけだし。    予想通り、端正な顔が覗いた。  俺に向かってにこやかに手を振ってくる。  ドキッと胸に稲光が走ったように胸が震えた。  心拍数ヤバし。  ヤバしだ。  朝から笑顔の散弾銃を喰らった気分である。  尊すぎて、死ねるってヤツだ。  推しに会えて興奮するオタクさながら、俺は今にも張り裂けそうな胸を押さえながら、恋人歴(暫定)六時間四十五分の男の顔を見つめた。  はぁ、やっぱり俺の恋人……今日も朝からかっこいい。  ニヤついたところで、今日からそんな男が俺だけのものになることに気がついて、さらに(やに)下がる。
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