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槙蛍汰、今日で十八歳。
とうとう本日、念願叶って恋人ができます(暫定)。
携帯電話のアラームよりも先に目が覚めた。
実のところ、緊張で一睡もできなかっただけの情けない理由だけど。
だって、今年の九月一日は俺にとって特別な日になる予定だから。
好きな人が十八になったら恋人にしてくれるという条件――「成人」の資格がとうとう得られるのだから眠れるわけがなかった。
法律には感謝している。
本当にいいタイミングで、成人の年齢を引き下げてくれたなあと。
だってそれまでの法律のままだったら、恋人になるまであと二年も多く我慢を強いられていたはずだ。
換気のために、俺は夜中締めきっていた部屋の窓を開けて、網戸だけに変える。
少しだけ秋の気配が入り混じる澄んだ朝の新鮮な空気が、たちまち鼻腔いっぱいに広がっていく。
同時に、味噌汁のいい匂いが漂ってきて、蒼佑の作る朝ごはんの匂いだと鼻が反応する。
それだけで俺の胸は、これ以上なく早鐘を打ちはじめる。
たかが、食べ物の匂いだというのにドキドキが止まらない。
あ、どうしよう……。
今日から、日付変わってから、俺は蒼佑の恋人……になったんだよね?
って、確認……したほうがいいのかなあ。
それともわざわざ確認するのって、野暮だったりするもの?
七歳年上の幼馴染である大朋蒼佑との間に、かつて俺は「成人したら恋人になろう」という約束を強引に取りつけさせた。
物心ついたときからずっと一緒である、お隣のお兄ちゃんの蒼佑を俺が好きすぎたせいで、しつこく何万回、何億回と恋人にしてほしいと迫ったのだ。
結果、とうとう数年前に首を縦に振り、条件付きだが将来の恋人ポジションを無事獲得することができたのである。
そして時は経ち。
法律が俺を味方するようにタイミングよく変わり、今日がその日であるわけで。
交わした約束を正式に守るとしたら、正確には数時間前の九月一日零時零分となった時点で、すでに俺は蒼佑と恋人になっている……わけであって。
けれど日付が変わった瞬間、突然恋人ぶっていいのかわからず、念のため蒼佑にメッセージなり電話なりして、改めて関係のはじまりを確認しようとしたのだが……。
クラスメイトたちからの怒涛のお祝いメール攻撃を受け、あいにくその機会を逸してしまって、今に至っている。
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