3.二人だけの秘密

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3.二人だけの秘密

 その日の夜、ママが仕事から帰ってくるまでに、僕らは堅く誓い合った。それはママには何もなかったことにすることだった。互いに転移したことは二人だけの秘密。ネムは僕としてママに接するし、これまで通り中学校にも行く。僕はネムとしてママに接するし、これまで通り一日中この家の中でのんびり暮らす。こんな生活がいつまで続けられるかはわからないけれど、とりあえずそうすることが正解な気がしたのだ。だいたいママにどうやってこの事態をうまく伝えればいいのか……、それはネムにも僕にもはっきりとはわからなかった。  ネムはちゃんと人間の言葉を話せたし(僕とほとんど同じ声質だった)、僕はネムの鳴き声とほとんど同じトーンで鳴くことができた。そういうわけでママに”二人の秘密”がバレることはまずなかった。  ママは僕が生まれて間もなく、パパと離婚。母子家庭の中、女手一つで僕をここまで育ててくれている。ただ、小学校高学年になってから段々と引っ込み思案になっていく僕の存在は、ママの新たな悩みの種としてどんどんと大きくなっていった。そんな状況下、ネムが大きな癒やしとなっていたことは間違いない。つい僕に怒ってしまったときなんかにはいつも、ネムを優しく撫でて自分の気持ちを落ち着かせているように見えた。  でもこれからはネムと僕の立場逆転生活が始まる。これから僕ら家族の日常はどんな風になっていくのだろう。中身がネムになった僕が、ママの悩みの種を少しでも縮小させることができればいいのだが……、そんな期待もしてしまう。  いずれにしても、学校に行く必要のなくなった僕は、憑き物がとれたように心が晴れ、随分とお気楽モード。このまま猫でいられたら、きっと自虐的思考とも無縁だろう。一方のネムはというと、元々人懐っこい性格で引っ込み思案の僕とはまるで正反対。初めての中学校にも行ってみたくて仕方がないようだった。  さーて、もうしばらくしたらママが仕事から帰ってくる。そうしたらどんな展開になるのか今からドキドキだ。
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