5.穏やかな朝

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5.穏やかな朝

 翌朝からネムは早起きをし、ママと二人分の朝食を作った。一体いつの間に覚えたのだろう。ママが調理する姿を見て学んでいたのかもしれない。  「おはよー、ママ。ちょうど今、朝ご飯できたから一緒に食べようよ」 「唯人、いったいどうしたのよ。昨日からなんかおかしいわよ。気が利きすぎてて怖いわ。どこかで頭でも打った?」 「まさか。僕はただ、ママの助力になりたいって思っただけだよ」 「まあいいけど。あら!目玉焼き上手に焼けてるじゃない。おいしそう!」  そして二人は”幸せの朝食”を共にする。僕はその傍らでネムの用意してくれたキャットフードを食べている。穏やかな朝のひととき。いつもの慌ただしさはすっかり影をひそめている。ママが寝坊助の僕を起こすのが大変で、慌てて出勤するようなことはないし、ママを見送った後、僕が一人で朝ご飯を食べるようなこともない。ネムが早起きして朝ご飯を作ることで、一日の始まりがこんなにもゆとりあるものになるなんて。    「あーおいしかった。唯人、ごちそうさまー!こんな素敵な朝は久しぶりね。じゃあ今から仕事に行く準備するね」  そう言って、唯人のおデコにキスをした。僕はママがそんなことをする姿を初めて見たから少しびっくりしたけれど、ママのあんなに幸せそうな表情は見たことがなかったから、ほっこり幸せ気分に包まれた。  ママを見送ったネムはそそくさと学校の制服に着替え、ルンルン気分で家を出て行く。 「行ってきまーす!」 「ニャ〜〜〜!」  今度は僕がネムを見送る。弾んだ声音からして、余程学校に行くのが楽しみと見える。大丈夫かなあと内心不安だったが、あの様子ならもしかしたら何も心配ないかもしれない。  一人になった僕は急に手持ち無沙汰になって、とりあえずソファの上に丸まってみる。  何もすることがないな……。  でもこの感じ案外悪くない。いや、とてもいい。穏やかな安心感に包まれるこの感じ。  猫でいる限り煩わしき学校には行かなくていい。そこで頻繁に繰り広げられる混乱や自己嫌悪とは全く無縁の世界だった。ここでは何もかもがフリー。きっとネムが僕の代わりに全てをうまくやってくれる。  僕は窓から差し込む朝の陽光の中で、いつの間にか眠りに落ちていた。
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