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博物館網走監獄まではバスを乗り継いで行った。遠足のようで楽しい。誰にも気を使わずに行動するのがこんなに楽で自由だとは思わなかった。
網走監獄は監獄といっても古いせいか、美しい洋館に見える。昔の監獄での生活は辛そうだが、流石に今の刑務所はここまで酷くないだろう。お風呂の時間は今でも短いようだけど、水風呂に入らされることがないのなら、幸せだ。きっと、俊介と暮らしているよりずっと幸せだ。今の網走刑務所の食事が食べられるところもあった。お腹いっぱいだったので、見るだけにしたけれど、美味しそうだ。ソフトクリームだけ買って、食べる。北海道のイメージ通り濃厚で美味しい。
見学を終えると、沙耶は満足のため息をついた。
「もう、これでいいかな」
逃げるつもりだったのに、もういいような気がする。幸せな気分だから、他の人にも嫌な思いはしてもらいたくない。
俊介の死体を見つけるのが、マンションの管理人さんや会社の人だと可哀想だ。やっぱり、慣れている警察官に発見してもらうのがいいだろう。冷房をつけていても、痛んだら嫌だし。
沙耶は網走駅に向かった。
鏡で見ると首を絞められた痕はまだ残っている。これを見せて、仕方なかったんだと言おう。そうすれば、死刑にはならないだろう。何年ぐらい刑務所にいることになるのかなあ。
沙耶は網走監獄を思い浮かべた。あんなきれいな刑務所ではないだろう。でも、きっと今までより楽しい。
駅に着くと、すぐに交番に行った。
中年の警官が座っている。
「こんにちは」
入っていくと、警官はすぐに立ち上がった。
「道案内ですか?」
沙耶は思い切り笑顔で答えた。
「いいえ、自首です。夫を殺してきました」
警官はポカンと口を開けた。
その顔がおかしくて、沙耶は思わず、吹き出した。
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