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羽田空港にはたくさんの人がいた。警官を見かけるとドキリとしたが、まだ、死体は見つかっていないだろう。
「あの、一番早い北海道行きの飛行機に乗りたいんですけど」
とりあえず、真ん中の窓口で聞いてみた。
「どちらの空港行きでしょうか?」
「一番早ければ、どこでもいいです」
きれいな女性はにっこりと笑った。
「それなら、ちょうど、当社の女満別空港行きが一番になります」
「じゃあ、それください」
「ネットで会員登録していただくと……」
「あ、いいです。現金で」
普通の買い方ではないようだが、チケットを購入することができた。
搭乗時間になるまで、警官が現れるんじゃないかとドキドキしながら待った。きっと、一日は見つからないと思うが、手が震えてしまう。
一番早いだけあって、すぐに搭乗時間になった。
みんな、スーツケースを引きながら楽しそうに話をしている。平日なのにこんなに旅行に行く人がいるんだ。
沙耶の席は窓際だった。今度は違った意味でドキドキする。小さい頃に飛行機に乗ったことがあるが、記憶にない。気持ちとしては初めての飛行機だ。
「北海道は初めて?」
隣に座ったおばあさんが話しかけてきた。
「は、はい」
「娘が小さい頃を思い出したわ。一生懸命、外を眺めてた」
CAさんが安全の説明をしているが、おばあさんは聞いていない。
「観光?」
「ええ」
「優しいご主人ね。うちの主人なんか、昔の人だから、一人で観光なんて許してくれなかったのよ」
沙耶は曖昧に笑った。そういえば、結婚指輪はつけたままだった。
「それがね、孫が生まれたら、もう変わっちゃって。娘が体調崩したから、応援に行くんだけど、遅れても行くんだって。正直言って、手伝いなんかしないで、孫の顔を見てるだけなんだけどね」
おしゃべりを聞いているうちに飛行機は離陸していた。
俊介との未来にもそんな孫馬鹿になるような未来があると思っていた。どうして、こうなったんだろう。
「観光はどちらへ? やっぱり、知床?」
沙耶はぼんやりと頭を振ると、どこまでも広がる白い雲を見つめた。それから、気がつくと、眠り込んでいた。
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