悪意のない国。

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「アンタ、ずっとここにいるの?」 「はい。私は私の前の魔王が死んだその日に生まれました。母親なしで生きられると判断された日から、私はここに繋がれています。母の顔は覚えていません」  私は顔を歪めた。そんな命令に従う少女の母親の気持ちが理解できない。 「魔王は今まで何人も使者サマに殺されてるんでしょう? 今ここにいるのはアンタの意思なの? アンタは最初に国中の悪意を受け入れることを願った少女と同一人物なの?」  問いかけると、少女は視線を落とした。 「違うんだ?」 「違います。けれど、違いません」 「は?」 「私は魔王の生まれ変わりなので、魔王なのです」 「イライラするなぁ。アンタが自分の意思で願ったんじゃないなら、魔王として殺される必要なんかないでしょ。そもそも、この国の魔王は魔王じゃない。 アンタはちっとも悪意に染まってないじゃない」 「私は……そういうモノなので」 「アンタはモノじゃなくって人間でしょうが」  少女のおどおどした態度に苛立ちが募る。  生まれ変わりだとか、そういうモノだとか。そんなの理由になってない。そもそも、理由があったってこんなことあってはならないんだ。 「私はね、当たり前に悪意が蔓延(はびこ)る世界で生きてきた。傷付いて、傷付けられるのも当たり前。争いごとのない日なんてない」  この世界に飛ばされる直前のことを思い出す。  うちのクラスにはいじめがあった。それもとても不可解で意味のないいじめが。  標的は何かをしでかしたワケじゃない。ただなんとなく、当番みたいに順番が回ってくる。しばらく耐えれば標的は次に移るから、誰も本気にならない。みんなゲーム感覚でクラスメイトをいじめていた。  いじめられることには耐えられた。だけど、いじめることにはもう耐えられなかった。いじめの輪から抜けた私を、クラスメイトたちは許さなかった。
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