悪意のない国。

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「私が呼ばれたのはきっと誰かが、アンタたちの神様がこの腐ったルールを辞めさせようとしてるんだよ。  だから、私はアンタを殺さない。  アンタ一人が犠牲になって終わらせればいいことじゃない。アンタがここで偽善者ぶって殺されたって、また次の犠牲者が生まれるんだ。こんな悪趣味なルールはぶっ壊さなきゃいけない!」 「そんな大それたこと」 「司祭から聞かされてるよ。魔王は自分を殺すことができないんでしょ?  アンタの命は私が握ってる」 「……そうです」 「だったら私と生きようよ。こんなジメジメしたところから飛び出してさ」  私は一歩踏み出し、短剣を少女の手に握らた。その切っ先を己の胸に押し当てる。 「嫌なら私を殺しなよ」  自分の意思を持つことが許されなかった子に、こうして選択を迫るのはよくないのかもしれない。だけど、私も所詮この子と同じ十六歳。他のやり方なんかわからない。 「あなたを殺すことはできない。そうすれば、私を殺せる人間がこの国からいなくなる」 「本当にそれだけ?」  少女の手はガタガタと震えている。怖いんだ。人を殺すのは。この子はやさしい子だ。 「簡単なことだよ。ほんの少し力を籠めるだけでいい。アンタが本当に魔王ならできるはず」
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