悪意のない国。

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「あのさ――」 「ヨウ、知ってるの? どんな国なの?」 「どこにあるの?」  質問を投げかけようとしたが、子どもたちの興味の対象は私からヨウと呼ばれた少年に移っていた。  見た目通り控えめな性格なのだろう。ヨウは群がる子供たちにたじろいだ。彼は中学生くらい、周囲に群がる子どもたちは小学生くらいだろうか。みんなを率いるリーダーというよりは、子どもたちを見守る保護者のように見える。  頼りない表情を浮かべながらも、ヨウは子どもたちを落ち着かせて語りだした。 「火の国は花の国とは違う大陸にあるんだ。大陸そのものが火山でできているんだよ。船に乗ってもたどり着けない、ずっとずっと遠いところにあるんだって。  だから、火の国から花の国にやってきたのは今まででたった一人だけ。もちろん、花の国から火の国に行った人もいないんだ」  興奮気味に話すヨウにつられたのか、子どもたちは頬を紅潮させて飛び跳ねた。 「花の国から出て行く人なんかいないよね」 「争いのないとてもうつくしい国。誰もがうらやむキセキの国だもんね」  子どもたちの相槌(あいづち)はまるで歌のようだった。屈託(くったく)のない笑顔を織り交ぜて、楽しそうに軽やかに自分たちの国を誇らしげに(たた)える。きっとそれは事実なのだろう。彼らの身なりには貧富の差が見られず、卑屈な表情を浮かべている子どもは一人もいない。  けれど、不思議と羨ましいという感情は湧いてこなかった。どちらかといえば恐ろしい。目の前のことすべてが造り物のように見えるのは、私の心が歪んでいるからだろうか。 「そうだね。それに、はじまりの使者さまは役割を終えた後、どこかに行ってしまったんだ。だから、火の国の話はほとんど残っていないんだ」 「ヘンなの。はじまりの使者さまはとてもすばらしいことをしたのに、どうしていなくなっちゃったの?」 「きっと、いっぱいいっぱいほめられただろうにね」 「もっといろんな人にほめられたくなっちゃったのかも」 「この国よりもすばらしいところなんかないのに」 「不思議だね」  ヨウが首を傾げると、子どもたちも同じように首を傾げた。
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