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やっと話が途切れた。
今度こそこっちが質問する側だと意気込むと、くるりと振り向いた少女が私の手を掴んだ。
「使者さま、使者さま。使者さまもヤクワリをおえたらどこかに行ってしまうの?」
「ここはとてもすばらしい国ですよ。争いがなくて、みんな穏やかで、しあわせな国です。花の国には誰でも入国できるわけではありません。役割を終えた後はゆっくりお過ごしください」
「そうだよ。ヨウの言うとおりだよ!」
「ちょっと待って。そもそも私は“使者”で確定なの? それに役割ってなんなの?」
手の平を突き出して制止すると、ヨウは困り顔で頷いた。
「あなたは今、突然ここに現れましたよね」
「うん、まあ。そっち目線だとそうなるよね」
私からすると、気付いたら突然知らない場所にいたって感じなんだけど。
「それがあなたが使者さまである証です。ぼくたちの祈りを神様が聞き届けてくださった。この国を救うため、あなたは神に遣わされたのです」
キラキラと瞳を輝かせたヨウは、どんな言葉を返しても私を使者様に結び付けてしまいそうに見えた。
この世界には神がいる、または誰もがそれを信じているのだろうけれど、神などいない世界に生まれ育った私としては首の後ろがぞわぞわする感触が拭えない。
「どうして私なの? 私はあなたたちの信じる神を知らないんだよ? 勝手に連れてこられて役割を求められても困るんだけど」
「……申し訳ないのですが、異国の方に救いを求めるのには理由があるのです」
「コラ! あなたたち、授業の開始時刻はとっくに過ぎていますよ!」
突然教会中に響いた叱声に、私たちは全員肩を震わせた。
振り向くと、教会の入口に七十は余裕で超していそうな男性が立っていた。顔と手には深い皴が刻まれているが、背筋は伸び凛としている。
「そちらの方は? 変わった髪色をされているが、まさか」
「そうですよ、司祭さま! 使者さまがいらっしゃいました!」
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