悪意のない国。

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 かつて、この国には悪意がありました。  人々は騙し合い、奪い合い、殺し合いをしていました。  けれど、ある日を境にそれらの悲劇はこの国から消滅しました。    なぜだかわかりますか?  人々がいなくなったのではありません。  彼らは誰一人、その事実に気付くことなく微笑んでいます。  はじめからそうであったかのように。今までも、これからも。  悪意が消えたのでもありません。  感情は、悪意は、人間が生きている限りかならず生まれるもの。  この国に存在する悪意の総量は変わっていません。  けれど、この国にはもう悪意は蔓延(まんえん)していません。  だったら、なぜ?  一人の少女が願ったのです。この国から争いを失くしてくださいと。  この国のすべての悪意を自分が受け入れるから、と。  そして、魔王が生まれました。  国中すべての悪意を内に宿すもの。それが私です。  さあ、早くここまで来て。  私を殺して。  私が私でいられる内に。  私の中の悪意が解き放たれる前に、私ごと悪意を消し去って下さい。
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