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  僕がそう言ったら、君は呆れて笑った。 「大丈夫だってば。この山にクマが出るなんて、聞いたことないもの」  実は、このやり取りは二度目だった。  一度目はもう何年も前だ。僕たちが出会って、まだそんなに経っていない頃だ。 「コゲラがいる」  君がそっと呟いて、望遠鏡を目に当てた。  僕も自分の望遠鏡を取り出したけど、コゲラがどこにいるのか、どうしても分からない。 「ん?どこ?」 「あそこ。あの枝の上」  結局、僕はコゲラを見ることはできなかった。エナガの群れがやって来たせいで、飛び去ってしまったのだ。  ガラスの棒がぶつかり合った時の音に似た、リリリ…というエナガのさえずり声がしばらく続く。 「賑やかだね」 「うん」  やがて、エナガの群れもどこかに行った。
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