やぁやぁ、秋がまだ来ないね

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 彼は、ひょいと家の中に入った。民家だと思った建物は、タバコ屋で、何百種類もの商品が置かれていた。桃谷は、ヤァヤァを抱きかかえ、二階の自室まで連れて上がった。一階で店番をしていた奥さんは、微笑ましく彼らを見送った。 「さて、今は客も少ない。好きなだけ相手をしてあげられるよ」  桃谷はヤァヤァに、うたた寝株式会社なるものを教えてくれた。 「私は24時間年中無休でタバコ屋をやっているのだけどね。客がいない間を縫って、仮眠をとっているんだ。その時間を、うたた寝株式会社と呼んでいるんだよ」 「よく分かんないけど、タバコ屋さんは、眠るお仕事もしているんだね。僕もうたた寝の仕事したいなぁ」  お喋り狐の一言で、桃谷は、いいアイデアを思い付いた。 「そうだ、店前で居眠りする狐を使い、商売に繋げよう。きっとたくさん人が訪れるはずだ!」  それから、ヤァヤァの生まれてはじめての仕事が始まった。眠る仕事は立派だけど、こんな大通りで眠るなんて、かなり緊張する。そんな大仕事でも、肝の据わった狐の腕にかかれば楽勝なのさ。フサフサしっぽを丸め、幸せそうな、愛くるしい寝顔。これには、人々も心を奪われてしまうよね。店先で写真を撮ったり、インターネットにあげたり、テレビの取材が来たりと忙しい日々。けれど、タバコが体に悪いということもあり、ブームが去ると、客足も遠のいていった。その中でも、定期的にタバコを買いに来る学生がいた。彼はまだ十六才で、髪を派手に染めた、やんちゃな男の子。桃谷のオジサンも、本当は二十歳未満にタバコを売るのはダメだと知っている。しかし、商売の為、裏でこっそり渡していた。 「近頃は大人しい子が増えたからね。ここまで分かりやすい不良は逆に安心するなあ」  
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