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人見知りで、客相手は奥さんに任せっきりの桃谷は、年上に構わず話しかけてくる高校生に、悪い気はしないのだった。
「オッチャンさ、いつから秋になるんだろうな」
その不良高校生、徳島君が、ある日呟いた。彼がそんなことを言い出したのは、いつまで経っても暑い天候のせい。九月も半ばを過ぎたのに、三十五度の気温が続き、桃谷も秋が恋しくなっていた頃だった。
「そうだね、秋分の日が過ぎたとは思えないね」
二人が悩む姿に、ヤァヤァの使命感(なんとかしてあげたい欲)が発動する。
「僕ね、秋の始め方知っているよ。方法とかは曖昧だけど、絶対どうにかなる!」
それは、ヤァヤァが、生まれて間もない頃、お母さん狐から聞かされたお話だよ。一年を通し、春・夏・秋・冬と循環する季節に、子狐は疑問に思ったのさ。
「ねえ母さん。どうして季節って四つあるの。どうして春の次は夏、秋の次は冬なの」
可愛らしい子どもの問いかけに、母さん狐はこう答えたよ。
「それはね、やぁ坊。全ての生き物が平等に活躍する為よ。世の中には、植物や虫、魚や爬虫類、ほ乳類、たくさんの生物がいるでしょう。彼らはね、一年のうち、自分が活躍する時期を選んだの。気の強いリーダーシップを取る生物が、どの季節にどの動植物が目立てるかを、ドラフト制で選んだのよ」
春は、桜や梅がリーダーになり、春を引っ張る。夏は、蝉や西瓜、イルカが率先して夏を盛り上げるのだ。ヤァヤァたち、狐が活躍できる季節は秋で、もし夏が出しゃばっちゃったら、秋の出番まで取るのではと、ヒヤヒヤした。
「夏のリーダーが誰なのかを僕は詳しく知らないよ。桃谷のおじさん、徳島君、僕は秋が大好きなの。夏を終わらせる協力をしてくれる?」
人間(特に大人)では、想像のつかないようなピュアな発想に、桃谷と徳島君は、微笑ましく思った。
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