0人が本棚に入れています
本棚に追加
6.
時は、時にせき止められながらも、流れていく。
たくさんの出会いや別れを経験しながら、流れ着いた先に色とりどりの思い出を積み重ねていく。
どんなに新しく美しい思い出が増えても、それに埋もれることがないように、必ず、すぐに取り出せる場所に移しておく、記憶。
忘れてしまいそうだからと約束しなかった、絶対に忘れたくない希望。
雲河を翔ける、飛行機という名のゴンドラの中、僕らは寄り添いあって笑う。
「あーあ。苗字変わるなら名前も変えたい」
「なーに言ってんの」
「ヒメカじゃなくて、カヒメになりたい」
「なんでだよ。ヒメカって、すごくいい名前だと思うけど」
「オウジカヒメ、のほうが面白いじゃん?」
「プリンスオアプリンセスさーん、って呼ばれちゃうよ」
「そうしたら、『どうもどうも』って両手振るよ」
「ちょっと見てみたいや」
今日も世界は、ぐるぐる回る。
想いや願いも、ぐるぐる巡る。
15年忘れずにいた、ボートを目指し、空を翔ける。
新たな物語が、また、始まる。
隣で微睡むツキがカクン、と体を揺らしたかと思えば、むにゃむにゃと何かを呟きながら、ニィッと笑った。
ゆるんだ口元からは、きらり輝く星が見えた。
かわいい花と共に、ウィーンを経由し、ヴェネツィアへ。
着くなり肺いっぱいに、空気を大きく吸い込んだ。
振りあおぐとそこには、僕らの旅の始まりを祝福するかのように、満天の星とまんまるの月が輝いていた。
〈了〉
最初のコメントを投稿しよう!