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「わたくしに出来たのはそこまででした。
両親が道を踏み外していくのを、わたくしは止められなかった」
いや、違うな。
あたしは止められなかったんじゃない。
止めなかったんだ。
「で、でもお義姉様はご自分が怪我をなさるのも厭わずに私を逃がしてくださったではありませんか!
やっぱりお義姉様は優しい方なのです!」
だから、あたしはユーリの言葉を否定する。
「違うのユーリ。あたしはね、怖かったの」
「それは……どういう?」
「あたしのせいで、ユーリが本来掴むはずだった幸せを逃してしまうのが怖かった。
そして、貴女を逃がした後は、これ以上何かをしようとしたら自分が自分でなくなってしまうのが怖かった。
だから、このままだと両親にどういう未来が訪れるのかわかっていたのに見捨てたの。
あたしは優しくなんかない。
ただの薄情な卑怯者なのよ」
断罪され、処刑されることよりもあたしという人格が失われてしまうのが怖かった。
どうせ死ぬ運命なら、本来の自分のままで死ぬ方がましに思えた。
だから、助けられたかもしれない両親を道連れにした。
あたしは最低の卑怯者なんだ。
「エミリア嬢。君が知っていたという物語の中のエミリア嬢も、罪を犯すことなく生き延びたのか?」
「え?いえ、物語の中のわたくしは両親の罪に深く関わっていましたから、運命を共にしました。
ですがわたくしはずっと体調が優れずに伏せっていましたので……」
正直言うと、今だってかなり辛い。
何せこんなに長く話しているのなんて、足に傷を負って以来初めてだ。
頭も少しぼーっとしてきている。
これは少し熱もあるかもしれないなぁ……。
「それなら、君は未来を変えたんじゃないか」
話の最中だと言うのに、少しぼんやりとしてしまっていたあたしは、最初大公閣下の言っていることの意味がわからなかった。
「これはユーリと君の前で言うことではないかもしれないが、子爵夫妻が罪を犯したのは彼等自身の責任であってそれ以外の何物でもない。
だから、私にとって君は愛しい人を救ってくれた恩人であることに何ら変わりはない。
それはユーリだってそうだろう?」
「もちろんです、大公様!
お義姉様は、今も昔も私にとっては優しく大好きなお義姉様です!」
「え……?いえ、ですが……」
戸惑う私に構わず、二人頷き合うと姿勢を正してあたしに向き直り、頭を下げる。
「何を!?大公閣下!頭を上げてください!」
今のあたしは、もはや子爵令嬢ですらない。
罪人の親を持つ平民だ。
それに対し、王弟殿下でもある大公閣下が頭を下げるなんてとんでもない。
「改めて礼を言わせて欲しい。
エミリア嬢、ユーリを助けてくれて本当にありがとう」
「お義姉様、ありがとうございます。私が今こうして生きていられるのは、全てお義姉様のおかげです」
そんなことを言われる資格なんてあたしにはない。
そう思うのに、頭を上げた二人が本当に幸せそうに、優しく微笑むものだから……。
もう、それ以上何も言えなくなってしまった。
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