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「お義姉様、私を殺しに来たのですか?」 私は部屋の入口でじっと立っている義姉に声をかける。 「……」 義姉は、俯いたまま何も答えない。 そうか。 私は義姉の手で殺されて人生を終えるのか。 それなら、まぁ悪くないないかな。 何となくそう思った。 だって、私が今日まで命を繋いでこれた大きな要因である「まともな食事」は、いつもこの義姉が差し入れてくれていたのだから。 その人の手にかかるなら、このまま飢えて死ぬよりもよっぽど良いと思えた。 「お義姉様の手でなら、私も悔いはありません。 さぁ、どうぞ」 そう言いながら私より少し背の高い義姉の、美しい金髪を見詰める。 かつては、父と同じ色の義姉の金髪が羨ましかった。 私の髪は、金髪の父と茶色の髪の母から産まれたのにも関わらず、まるで夜の闇のような漆黒だ。 瞳までもが両親の色を引き継いでいない。 緑の瞳を持つ父と、青い瞳を持つ母を持つ両親から産まれたはずの私の瞳は、血のような深紅。 物語に出てくる悪魔のような色を持って産まれた娘を、父が疎んじたのも仕方ないのかもしれない。 「う……」 また関係ないことを考えていた私は、微かに聞こえた義姉の呻くような声で現実に引き戻される。 「お義姉様?もしやお加減が悪いのですか?」 「大丈……夫……」 とても大丈夫には聞こえない声で答える義姉が心配になる。 今にも私を殺そうとしているだろう人のことを心配しているのも変な話しだけど。 でも、母が亡くなり、私を気にかけてくれていた使用人までもがみんな居なくなってしまったこの屋敷で、時たまとは言え、私に優しさを見せてくれたのはこの義姉だけだったんだ。 食事を持ってきてくれた時、みんなが忌み嫌う私の黒髪を、優しく撫でてくれた。 誰もが見ようとしない私の深紅の瞳をしっかりと見て名前を呼んでくれた。 体もだけど、私の心が今日まで壊れなかったのは、きっとこの義姉のおかげ。 だから、今から殺されるのだとしても心配くらいしたっていいと思う。 そうして、じっと私の見ている前で、姉はゆっくりと右手を上げた。 かつて私を優しく撫でてくれたその手に、今は私の命を終わらせる冷たく光るナイフを持って。 あぁ、これで死ぬんだな。 そう覚悟を決め、目を閉じる寸前、目に入った義姉の翡翠のように美しい瞳には、深い悲しみが浮かんでいるような気がした。
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