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あと問題が残っているとしたら、エミリア自身だった。
ユーリへ近づくと、いつも頭が靄に包まれるようになってしまう。
でも、今回ばかりはそうなる訳にはいかない。
なにがなんでも、ユーリを説得して屋敷から逃がさないといけない。
だから、案の定意識が靄に包まれそうになった時に自分で自身の足を刺した。
ユーリには怖い思いをさせてしまって申し訳なかったけど、痛みのおかげでなんとか最期まで自分自身を失わずに話すことが出来た。
「これ、断罪の前に死んじゃうかなぁ……」
血を流し過ぎたことでぼーっとしている頭で、ついそんなことを考えてしまった。
自分で刺した太腿に目を向ける。
なるべく小振りのナイフを選んで持って来たこと。
形だけでも止血をしたことと、ナイフを抜かずにそのままにしていることで、すぐに失血死するようなことはないとは思うが、それでもずっと血は流れ続けている。
だが、そうはいかないと直ぐに頭を切り替える。
「このままここで死んで、ユーリの仕業とか思われたら困るから、もしも死ぬならちゃんと言い訳してからがいいんだけど……」
一応言い訳は考えてあるし、大公家に着いたら、そのことを大公に伝えるようにアンナにも言ってある。
それでも、徐々に視界は暗くなっていくし、もう体を動かす事も出来ない。
ユーリが旅立ったら、すぐ人を呼んで手当てを受けると約束したのに、守れそうにない。
妹と交わした最後の約束なのに……。
不思議と死ぬことへの恐怖はなかった。
既に一度経験しているからかもしれないし、エミリアとしての運命を受け入れているからかもしれない。
このまま小説の通りに物事が進めば、今から二年後。
エミリアは家族諸共死ぬことになる。
前世の記憶を取り戻しても、何も出来なかった自分は、結局そうなるのだろうなと思っている。
それでも、つい考えてしまう。
もしかしたら、ユーリは自分の死を悲しんでくれるのだろうかと。
そんな資格はないし、きっと憎まれているはず。
ユーリからしてみれば、自分は手を差し伸べると見せかけて突き放したのだから。
恨まれて当然だ。
部屋を出るまで、ずっと自分の心配をしてくれていたユーリの姿を思い出し、自然と笑みが浮かぶ。
「最後の最後まで、あたしなんかの心配までしてくれて……本当に優しい子……だから……」
幸せになってね。さようなら、あたしの可愛い妹。
いつまでも、ずっと貴女を愛してる。
愛しい妹への想いを最後まで言葉にすることなく、エミリアは意識を手放した。
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