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邂逅
炎天下の中、どこへ行くでもなく歩いていた碧は公園で休憩していた。桜の木が1本大きく育った、木の下、影となっているベンチに座り、空を見上げ、どこへ行こうか考えていた。すると、ザッザッと碧に近く足音が聞こえた。その音の方へ顔を向けるとそこには1人の少女が居た。背丈は碧と同じくらいできっと高校生であろう。涼しげな白いレースのワンピースを着て、青いリボンで結われたハーフアップをしていた。この暑さと少女の涼しげな姿に少し頭が痛くなる。視線を逸らし少女を見ないようにするが、鈴を転がしたような声で碧は少女の方へ向かざる得なかった。
「何をしているの?」
純粋無垢な少女の瞳はしっかりと碧の目を捉えていた。酷く後ろめたさを感じ目をそらそうにも、逸らすことの出来ない少女の瞳に吸い込まれそうになりながらも頭を振る。
「何もしてないよ。」
可愛らしく碧の隣に座った少女を楽しげに笑った。
「じゃあ私と遊ばない?」
「遊ぶって…なにするの?」
耳鳴りがする。視界が歪む。
「ん〜、まずはね、ゲーセンでしょー?それから…ボーリングとか!あとあと、動物園とか水族館も行きたい!あ!海も行きたいなあ、いや、山も捨て難い…」
花が咲いたかのように笑顔になる少女はあれよこれよと碧としたいことを次々言う。どこか聞いたことのある口振りで楽しそうに笑う彼女は碧の手を取り、立ち上がることを促す。耳鳴りは消えていた。碧はその手を取り彼女の笑顔に惹かれながらどこへ行くでもなく歩き出した。
少女はアカネと名乗った。苗字もどこの高校なのかも、どこに住んでいるかも何も教えてはくれなかった。碧が聞いても笑ってはぐらかすように別の話題へすり替える。繋がれた手は確かに彼女は存在していることを証明しているようだった。初めてあったはずなのにそうでは無い感覚。アカネの笑顔を、話し声を聞くだけで胸の奥の熱がじわっと広がる。
「どこへ行きたい?」
「やっぱり暑いし室内とかどう?」
手を仰ぎながら、涼し気な顔で笑う。汗ひとつかいてないアカネの肌に少しだけ寒気を感じる。
「いいね、このままだと熱中症で倒れちゃうよ」なんて笑いながら見ないふりをする。
「じゃあさ!水族館行かない?私行ったことないんだよね」
「ここから水族館遠いけど大丈夫?」
「うん!大丈夫だよ!いこ!」
嬉しそうに笑う。つられて碧も笑顔になる。スマホの時刻を見る。既に14時を過ぎていた。
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