回顧

1/1
前へ
/9ページ
次へ

回顧

波音が静かに2人を包み込む。 「ねぇ、アオイ。今日はありがとう」 砂浜に足を取られながら歩き出す。 「私ね、夢だったの。あんなふうに行きたいところを話したり、遠出したり、手を繋いだり、笑いあったり。」 振り返る。真っ直ぐと碧を見つめて 「叶うなんて思ってなかったから。」 海を見る。聞きたくなかった言葉も聞きたかった言葉も全てを連れてきて、同時に全てを連れ去って。 「___二度と会えないと思ってたから」 「碧。思い出して私たちの日々を」 少女がいた。毎朝7時に起き朝食を食べ学校へ向かう。クラスメイトに挨拶をし友達とおしゃべり。授業を受け、昼休みは売店のパンを書い、友達と一緒に食べる。陸上部が走り込みをしている校庭を横目に放課後は何しようか話しながら下校する。少女はそんな日常が繰り返される日々の中にいた。ほんの出来心だった。初めて学校を休んだ。母親に体調が悪いフリをして、両親は 「ゆっくり休んでね。今日は早く帰るから」と言い残し、仕事へ向かう。誰もいなくなった部屋で被っていた毛布を頭までかける。両親に嘘をついたことへの罪悪感でいっぱいだった。耐えきれず体を起こす。今からでも学校へ行って授業を受けよう、そう立ち上がった瞬間だった。視界は暗闇となる。立ってられず近くの壁にもたれ掛かる。目をつぶって不快感が抜けるのを待つ。再び目を開けると視界は元に戻っていた。緊張の糸が切れる。キッチンへ向かい母親が用意してくれた朝食に手をつける。変わらず美味しい。静かな家の中で少女は考えていた。今学校に行ったとしてきっと不審な目で見られるだろう。だからといって家にいるのはあまりにも居心地が悪かった。自分の家のはずなのに、知らない家にいるような気分。建物自体が意志を持って少女を拒絶しているかのような。ワンピースに着替える。制服には手がつけれなかった。外へ出る。梅雨が明け、暑い日が続いていた今日。照りつける太陽の元、輝くアスファルトが少女__柏木茜を歓迎してるかのようだった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加