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遭逢
輝く日光を浴びながら、歩いていた茜は近くの公園に来ていた。そこは春になると大きな桜の木の下でよく街の人達が宴会を開いている場所でもあった。しかし、今は暑さのせいか春の喧騒などどこにも存在しなかった。よく見ると木の影になっているベンチに1人座っているのが見えた。背丈は茜と変わらず小柄な印象を受けた。彼とも、彼女とも言えない姿をした人は、こちらをじっと見ているかのようだった。まるで誰も惹き付けない、拒絶するような目。後退りする。太陽の光が茜に降り注ぐ。その暑さで汗が滲む。意識が持っていかれる感覚を覚えた。(今すぐ日陰へ行かなければ)仕方がなく、ベンチへ近づき少し離れたところに座る。横目で見るが、こちらを見る気をもなかった。よく見ると同じ高校の制服をみにつけていた。
「もしかして、戸羽高の人?」
「え、」
目を見開いていた。驚いた表情をしたその人は静かに頷く。
「やっぱり!私も戸羽なんだよね!何年生?」
体が前のめりになる。それに反応して体を避けられる。
「__1年」
「私も!」
パッと花が咲いたように笑う。今までのドギマギした心はどこへやら、あれらこれらと茜は話しかける。それに、たどたどしくも時には控えめに笑う、その人は来栖碧と言った。そこからだろう。2人でよく会うようになった。休日は毎日のようにあの公園へ行き、碧に会う。そんな日々を繰り返す。2人が呼び捨てで呼び合う関係になるまでそう時間はかからなかった。
「私ね、碧ともっと色んなところ行きたい。公園だけじゃなくて遊園地とか動物園とかさ…水族館もいいな!海もいこ?」手をにぎる。少しだけ微笑む碧は
「約束ね」小指を立てる。それに絡めて糸を強く結ぶようにぎゅっとする。笑い合う。2人だけの約束。2人だけの世界。それだけで良かったのに。
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