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二人は
このアルバイト学生と女性客の二人は、この春から同じ大学に通う同期生。
知り合ったのは、偶然にも出席した講義で3回連続で隣同士の席になったと言う奇跡の縁。しかも、話の取っ掛かりとして聞いてみた出身地が偶然にも同郷で、しかも出身校も直ぐ傍であった。
それで盛り上がった二人は同じ講義の時はいつも隣に座るようになり、仲もそれなりに深まっていったのではあるが、奥手な二人にとって友人の先にある高い壁は、未だ越えるに至ってはいなかった。
その状態のまま大学が夏休みに入ると、彼女は彼のバイト先であるこのカフェに、頻繁にやって来るようになった。
一応彼女としての常識感からなのか、長く居座ることはなく1時間以内では帰って行くのだが、数時間すると再度やって来ることもしばしばであった。
それだけの頻度でやって来ても、最初の頃は注文も正規のメニューで頼んでくれていた。しかし、そんな行動が金欠の彼女に長続きするはずもなく、夏休みも半月も過ぎる頃には、値下げ交渉をすると言う暴挙に出るようになったのである。
知り合ったばかりの一歩踏み込めない何処かよそよそしい距離感と言うのは、それなりに仲を保つ効果があるようで、二人もその他人行儀の部分で上手く関係を保つことが出来ていた。
だが、夏休みに入るとその解放感と、キャンパス外と言うプライベート感からだろうか、次第に性格の本質の部分が表に出始めるようになって行った。
更にそれが常習化し、自身の本質に特別な感情も加わってしまうと、稀に人はあらぬ行動に発展してしまうこともあるようで、この二人もその”稀”の仲間入りへと向かって行ったのである。
そんな金欠な彼女に対して、彼も最初はバイトを進めていた。色々探しもしてあげていた。しかし、彼女は、それになかなか腰を上げようとはしなかった。
”もしかすると何らかの理由があるのかもしれない”そう思った彼はそれも諦めてしまい、多少の我儘は多めにみることにしていたのである。
と言うことで、最初彼は「足りない分は俺が払います」と、ここの処の不足分は彼女には内緒で、彼がお店に払っていた。しかし、それは度重なって行き止める気配すらない。そこで、ここ二日は小さいグラスで持って行くようになったのである。
オーナー夫妻としては彼の親しい友人であり、量を減らしてなので、不足分は要らないと言っていたのだけれど、真面目な彼は正規金額との不足分はしっかりと払い続けていた。しかし、こうも頻繁だといつまでも彼女の行動を大目に見る訳には行かない。
「今日も、小さいグラスでもっていくのかい?」
オーナーが彼に尋ねてみる。それに、
「存在しないメニューをいつまでも出すというのも、他のお客さの手前良くないと思うので、どうしようかと…」
「だったら、お得意様特別ってことで、彼女だけの裏メニューってことでもいいよ」
とオーナーは言ってくれるのだが、
「でも、それが当たり前と思われても、彼女に良くないので」
彼の真面目さは筋金入り。
すると、オーナーの奥さんが
「お金が無いのも本当なんだろうけど、半分はあなたに甘えてるのかもね」
「それって、甘え過ぎじゃないですか?」
「そうねぇ、私には羨ましい”あまえ”だけど」
と、奥さんは微笑ましく見つめるのだが、その意味が彼には分からないようで、
「どこがですか?」
不服そうである。
「まあ、君に任せるよ」
結局、いつもの通りオーナーは彼に一任することにした。
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