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クリーム砂糖水の結果
「お待たせ致しました」
彼が運んできたクリームソーダ。それは、昨日、一昨日のような小さなグラスではなかった。今日は正規のグラスなのである。
それに、眼を輝かせてストローを挿す彼女。そしてまずは一口。
「あれっ?」
違う、絶対に違うと首を傾げ、もう一口。
「シュワってしなぁい、気が抜けてる」
「ええ、”ソーダは、砂糖水へ移行しました”サービスで、色は付けてありますけど」
彼はメロンシロップを水で割り、それにアイスクリームを乗せたものを出したのである。
「クリーム砂糖水だ。なんかショック…」
「お店からのご厚意で料金に見合ったメニューを特別に用意致しましたが、ご不満ですか?」
「いいえ、これで大丈夫です」
彼女は立場上、渋々納得するしかなかった。
この対応なら、もう値切っては来ないだろう。来店頻度は減るだろうけど、正規の金額で注文してくれるだろう。彼はそう考えたのである。
それは、彼的には自分ながら中々の名案であった。
ただ……
次の日、彼女は来なかった。そして、次の日も。
それに平然を装う彼ではあったが、その様子がいつもと違うのはオーナー夫妻にも一目で分かってしまう。時間が経つにつれ、彼が外を見る回数が増えて行ってるのだ。
「今日も、彼女来ないね」
「改心してくれたんじゃないですか。良いことじゃないですか」
オーナーにはそう応えはする彼だが、いつもと比べて明らかに元気が足りない。
そして、その次の日も、更に次の日も。
彼女が来なくなって一週間が経った。
「連絡はしたの?」
オーナーの奥さんが彼に尋ねる。
「いいえ、してないです」
「心配ねぇ」
「いえ、金欠なんだから7日くらい間隔が空く方が普通だと思います。それに、こちらから先に連絡すると、また同じことを繰り返すような気がするので、それは、ちょっと出来ないかなって…」
強がる割には、彼女が来なくなってからの日数を正確に数えている。それに、窓の外を人が通る度に気にも掛けている。
彼からは、明らかに冷たくしたことに後悔しているのが伺える。
その姿に胸が痛いオーナーの奥さんは、ついお節介したくなってしまう。
「家は知ってるの?」
「まあ」
「ほら、帰りに電気が付いてるかだけでも見てきたら?何かあったら大変だし」
「そ、そうですね。確認くらいはした方がいいのかもしれないですね」
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