デートに行こう

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デートに行こう

「海、行かない?」 「行かない」  返された言葉に僕は苦笑する。  僕の彼氏は、休みの日にほとんど外に出ない。めちゃくちゃインドア派だ。  僕も、そんなに外に出るタイプじゃないけど……たまには、どこかに行きたいな。 「じゃあ、山は?」 「嫌だ」 「どこなら良いの?」 「……」  あ、黙っちゃった。  かと思えば、僕を手招きして隣に呼んだ。  僕はそれに従って、小さなソファーに腰掛ける。 「何?」 「……どこにも行かなくても」  ぎゅっと、彼氏は僕を抱きしめた。 「……お前が隣に居てくれれば、どこにも行かなくても良い」 「え……」  そんなこと、言われたら……もう……!  僕は照れ隠しに少し俯いた。 「……でも、デートはしたいなぁ」 「家デートはしてる」 「夕飯の材料を買いに行きたい」 「……それってデートじゃなくない? 買い物じゃん」 「デートだよ。ね、今から行こう? 夕飯、カレーにしようよ」 「……ん。分かった」  僕は彼氏の手を掴んで立ち上がらせる。  楽しい、デートのはじまり。  特別な場所に行かなくたって、毎日を幸せに暮らせたら良いな。 「……あのさ」 「うん?」 「……海、行きたいなら……」  気にしてくれたんだ。  僕は微笑む。 「僕も、君が隣に居たら、どこでも良いや」  そう言って抱きつくと、彼氏は「ありがとう」と小さく笑った。  窓の外は夕焼け色。  僕たちは少し遅めのデートに向かうため、お互いの手をそっと絡めた。
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