るるちゃんと美々

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るるちゃんと美々

 地元の町の端っこの山には、古びて誰の手も入らなくなった神社がある。普段はここから離れた寄宿舎で暮らしているけれど、こういう長期休みの間だけ帰宅が許されている。  その学校が夏休みの間、私とるるちゃんは毎日のようにそこで会った。るるちゃんは、唯一地元が同じ同級生だ。  神社のある開けた場所は日差しは強く、廃れた社の影に隠れても自然の中では涼しいと前置きが付くような、遊ぶにはつらい場所だったが、私たちは朝が来ればここにかかさずやってきた。  それも、今日で一度終わりを迎える。帰宅を促すような町内放送と、鮮やかな夕日が差し掛かりはじめたところで、私はるるちゃんに言葉をかけた。 「もう学校始まっちゃうね」 「……」  るるちゃんは黙ってしまった。先ほどまであれだけ楽しそうに笑っていたのに、それを思い出してしまったのだろう。長いポニーテールもうなだれているように見える。だけどここで引き下がってはだめだ。 「ごめんね、でも……」 「ううん、美々に言わせてごめん」 「るるちゃん宿題終わってるかなって」 「それ?! 終わってる! 終わってるよ!!」 「よかったあ」  ほっとして、体の力が抜ける。 「るるちゃん、一週間前はぜんぜん手つけてないって言ってたから……」 「そんなに心配させてた? ごめんね」 「ううん」 「……あのさ」  安心しきった私と対照的に、ひどく気に病んだような表情のるるちゃんの手が、私の手を包む。 「美々はだいじょうぶ?」 「全部終わってるよ」 「それは知ってる」  私の宿題はとっくの前に終わっている。るるちゃんはそんなこと、とっくに知っている。 「あたし、結局何も思いつかなかった。ごめん」 「いいんだよ。私もダメだったから、ごめんね」 「美々……」 「るるちゃん、しばらくまた話せないけど、頑張ろうね」 「うん、うん」  夏休みの間、毎日のように会った。人目を盗んで二人きり。それもいったんおしまい。るるちゃんが泣いてしまいそうな顔をするので、つないでいないほうの手で彼女のほっぺを軽くつまんだ。 「笑ってよ。ね。がんばろ」 「……美々も」 「うん、また明日」  そう、また明日会えるんだから。  離した手でるるちゃんに手を振って、るるちゃんも私に手を振り返して、お互い家に帰った。明日は早くに起きて、荷物を持って学校に戻らなければならない。
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